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ガザ・イスラム聖戦との外科的近代戦:黒帯作戦は50時間で停戦へ 2019.11.14

 2019-11-14
12日早朝、イスラエル軍は、ガザのイスラム聖戦最高指導者バハ・アブ・アル・アタル(42)を、5人の家族、親族とともにいるところを空爆で暗殺。イスラエル軍はこの時同時に、シリア(ダマスカス)にいたイスラム聖戦のもう一人の指導者アクラム・アル・アジョウリも暗殺した。

この直後から、ガザのイスラム聖戦が、イスラエル南部からテルアビブ近郊にいたる広範囲地域に向けたミサイル攻撃が始まった。イスラエルは激しい反撃を予想していたかのように、12日は、イスラエル南部だけでなく、テルアビブにも学校やビジネスを休止させ、市民には自宅待機とさせた。

<イスラエルへのミサイル350発以上>

12日、ガザからの攻撃は190発を超えた。その後、夕刻から約7時間の静寂があったが、13日早朝6時から再び、ガザからのミサイル攻撃が始まった。13日夕方までに、ガザ周辺からイスラエル南部地域、アシュケロン、さらにはテルアビブに近いレホボト、エルサレムに近いモデイーンなど、イスラエル中部地域にまで向けて発射されたミサイルは、350発にのぼった。

ミサイルの90%は迎撃ミサイルシステムのアイアンドームが撃墜。残り10%のうち60%は計算通り、住民のいない空き地に着弾し、その残りが、スデロット、アシュケロンの民家を直撃した。

これにより12日、アシュケロンで女性1人が軽傷。13日には、アシュケロンの高齢者ホームに着弾し、女性(70)が、中等度の負傷となった。この他、数十人が軽傷を負った他、ショックで手当てを受けた人もいた。物的な被害は出ているものの、イスラエル側に重篤な人的被害は出ていないといえる。

http://www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/271613

写真:直撃を受けてキッチンの天井に大きな穴があいた家(ネティボット:ガザ周辺):住民のバットシェバさんらは、2回目のサイレンでシェルターに入っていて無事だった。なお、テロで被害を受けた家の修理は、通常は、100%国がカバーする。

https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5623889,00.html

*余裕!?イスラエル人の様子

ミサイル攻撃は、イスラエルでは珍しいものではない。しかし、昔と違い優れた迎撃ミサイルがあるので、人々も昔のようではなく、余裕でシェルターなどへ避難しているようである。13日には、イスラエル南部以外は学校も再開した。

今は旅行のハイシーズンで、旅行者もテルアビブ地域にかなり押し寄せているが、大きなパニックはない。むしろ、迎撃ミサイルの撃墜をカメラに収めようとする観光客もみられる。ベン・グリオン空港も通常の運行を続けた。

https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5624786,00.html

ビデオ:南部の子供たち:子供たちがパニックにならないように導く幼稚園や家庭の様子

https://www.mako.co.il/news-military/2019_q4/Article-9e60be53be56e61027.htm?sCh=31750a2610f26110&pId=173113802

ビデオ:レホボトで結婚式中にサイレンがなり、新郎新婦と客たちも、シェルターに避難しているが、余裕の様子のイスラエル人たち

https://www.mako.co.il/news-military/2019_q4/Article-0ee952c4fb66e61027.htm?sCh=31750a2610f26110&pId=173113802

<イスラム聖戦幹部・軍事拠点への反撃:イスラエル軍>

イスラエル軍は、慎重にガザの市民に被害が出ないよう、イスラム聖戦の拠点と武装関係者だけを狙う空爆を続けた。やられたら、きっちりやり返すという反撃で、「そちらがやめたらこちらもやめる」という原則を暗示するとともに、幹部のピンポイント攻撃を行うことで、停戦を促す作戦をとった。

この反撃中、アブ・アル・アタルに加えて、イスラム聖戦ガザ部隊司令官カリッド・ファラージ(38)、ロケット部門司令官ラスミ・アブ・マルハウスが死亡した。(イスラエル軍報告)。

https://www.timesofisrael.com/palestinians-say-family-of-6-killed-in-apparent-israeli-strike-on-home-in-gaza/

ガザによると、13日までにイスラエル軍の攻撃で死亡したパレスチナ人は32人。イスラエルは、そのほとんどが、イスラム聖戦幹部やメンバーと主張しているが、ガザからの報告では、両親と子供という一家6人全員を含む13人の市民が空爆の犠牲になったと主張する。これについて、イスラエル軍のコメントはない。

注目されたのは、ハマスの出方であった。今回、イスラエルの攻撃対象はイスラム聖戦に限られているが、今後ハマスが加わってくるかどうかで、イスラエルも大規模な戦争に発展させるかどうかを決断しなければならなくなる。しかし、最後までハマスは戦闘には参加しなかった。

またイスラム聖戦がイランの支援を受けるシーア派組織であることから、北部ヒズボラが、この事態に便乗してくる可能性も懸念されたが、それも避けられたようである。

<14日5時30分停戦合意へ:イスラム聖戦の方から停戦条件提示>

衝突が始まって間もなく、エジプトと国連が停戦への仲介を開始。イスラム聖戦は、12日中は、「まだアル・アタルの血が乾いていない。」として、停戦には応じない構えを見せた。

しかし13日になり、イスラム聖戦側から、イスラエルが直ちに幹部へのピンポイント攻撃を停止するなど、複数の停戦条件を出し、仲介のエジプトが、14日朝午前5時30分から停戦との合意に至ったと伝えた。戦闘が始まってから2日後のことである。

合意内容には、毎週金曜の国境デモにおいてもイスラエルが攻撃を停止することも盛り込まれており、イスラエルがどこまで合意したかは不明。また、合意時間より後の午前6時の時点で、その後正午ごろもまだイスラエルへのミサイル攻撃があったので、有効かどうかは今後の動きを見るしかない。

ただ、14日、イスラエル南部では、少しづつ学校が再開されるなどの動きが始まっているので、合意に至ったことは間違いなさそうである。

https://www.timesofisrael.com/gaza-ceasefire-between-israel-islamic-jihad-in-effect-from-5-30-a-m/

結局のところ、迎撃ミサイルが威力を発するので、いくらミサイルで攻撃しても、イスラエルへの被害は最小限である一方、イスラム聖戦へのダメージはかなり大きいわけである。ネタニヤフ首相は、イスラム聖戦の方から停戦を出してきたことから、今回は、イスラエルの作戦勝ちだとの認識を語った。

http://www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/271640

イスラエル軍も、50時間で、イスラエルの目標は全部達成できたと高く評価し、この作戦を「ブラック・ベルト(黒帯)」と名付け、作戦は成功したと発表した。

https://www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/gaza-news/IDF-confirms-ceasefire-with-Palestinian-Islamic-Jihad-607828

<なぜ今ハバ・アブ・アル・アタル暗殺したのか:イスラム聖戦とは?>

今回の紛争は、イスラエル軍がイスラム聖戦のハバ・アブ・アル・アタルを暗殺したことから始まっている。イスラム聖戦は、ヒズボラと同様、イランの支援を受けて活動しているテロ組織(アメリカがテロ組織に指定)。特にアブ・アル・アタルはイランとの調整役として知られていた人物である。

ガザ市民への公的責任を一応にも負っているハマスと違い、イランの支持の元、ただただイスラエルを攻撃すればよいだけのイスラム聖戦は、イスラエルにとって非常に危険な存在であった。イスラエル軍によると、アブ・アル・アタルは、ここ数ヶ月の間のイスラエルへのテロを計画、指示しており、今後のテロも計画していたという。

また現在、イスラエルは、ガザへの全面介入を避けるため、ハマスに上手にガザを治めてもらうことを目標に、エジプトを介して、ハマスとの交渉を水面下で行っている。この間、アブ・アル・アタルは、イスラエルへの攻撃を実施して、両者の交渉を妨害してきたのであった。

今回、アブ・アル・アタルを暗殺することで、イスラム聖戦の動きを制すると同時に、それへの反撃に反撃する形で、イスラム聖戦が持つ武力に打撃を与えておくことは、イランの脅威を削ぐことにもつながる。イスラエルにとっても大きな益であった。

イスラエルとっては、大きな外科的作戦ではあったが、政府、軍、リブリン大統領からも成功したとの評価になっている。

https://www.timesofisrael.com/as-rockets-paralyze-half-the-country-was-assassinating-abu-al-ata-worth-it/

しかし、一方で、イスラム聖戦が弱体化することは、結果的に、そのライバルであるハマスを強化することにもつながっていく。

ハマスへの徹底的な攻撃ではなく、逆にハマスを助けることになるような方針を続けるネタニヤフ首相に反発して、昨年末、防衛相を辞任したリーバーマン氏(イスラエル我が家党)は、今回の衝突についても、「実質、ハマスへの敗北だ。」と、痛烈な批判を出した。

https://www.timesofisrael.com/this-is-actual-surrender-liberman-assails-netanyahu-for-hamas-policy/

*ハマスとイスラム聖戦の違い

ハマスとイスラム聖戦は、かつては両者ともにイランの支援を受けていた。しかしシリア内戦が勃発すると、ハマスは、イラン傀儡だったアサド政権を支持せず、反政府勢力の側に立ってしまう。これを受けて、イランはハマスを見捨てるようになった。

しかし、イスラム聖戦は、続けてイランの側に立ったので、イランはイスラム聖戦を支援するようになった。このため、イスラム聖戦は、ハマスより小さい組織でありながら、武力については同等ぐらいになったので、今、ガザではハマスにとって頭の痛い存在になったのである。

イスラム聖戦が強くなったために、ハマスの支配で、生活を破壊されたガザの市民の中には、こちらに流れる者も出始めている気配がある。将来ガザがイラン傀儡のイスラム聖戦に支配されることは、第二のヒズボラを南に抱えることにもなりうる。

皮肉なことだが、イスラエルはイランを連れてくるイスラム聖戦よりハマスの方が、まだましということになっているわけである。

<今後どうなるのか:イスラム聖戦指導者ズィヤド・ラシディ・アル・ナクハラ登場>

今回、アブ・アル・アタルが暗殺された後、今回の衝突を導き、後にイスラエルとの停戦に持ち込んだのは、ズィヤド・ラシディ・アル・ナクハラ(66)であった。

ナクハラは、ガザ出身。1971年にテロリストとしてイスラエルで逮捕され、終身刑の判決を受けたが、1985年に囚人交換で釈放された。イスラエルの刑務所での14年でヘブル語も堪能だという。ナクハラはその後もう一回イスラエルで逮捕されたが再び釈放。2018年から、レバノンで、イスラム聖戦の事務総長となった。

エルサレムポストによると、ナクハラは、イスラエルから釈放された後は、レバノンとシリアに在住。ヒズボラとイラン、特にイラン革命軍のカッサム・スレイマニとも関係を維持している。ヒズボラと同様、イランには、完全服従だという。パレスチナ人のナスララともよばれている人物である。

ただ一点の希望は、ナクハラのナスララと違うところは、ナクハラが、ガザ出身者として、この地域でのエジプトの存在を理解している点である。今回、停戦に応じたのは、エジプトに逆らったら、ガザからは出入りもできなくなるというガザの弱点を良く理解しているからと思われる。

結局のところ、イスラエルは、黒帯作戦で、イスラム聖戦に大きな打撃を与えたが、実際には前と同じか、前より悪いものを迎えた可能性も否定できないということである。

https://www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Ziyad-al-Nakhalah-The-Palestinian-Hassan-Nasrallah-607752

<情報とハイテクによるコスト戦:新しい戦争の形>

戦争の形は、医学以上に日進月歩かもしれない。今回のイスラエルとガザとの戦争は、世界に新しい戦争の形を垣間見せていた。それは、情報とハイテクに支えられたコストパフォーマンスの考え方に基づく戦争という概念である。

アブ・アル・アタルを暗殺したイスラエル軍は、アブ・アタルが確実にその日、その時間に自宅にいるということを突き止め、小さなドローンでそれを確認後、ビル全体を空爆するのではなく、その部屋がある階のみを完全に破壊した。

これはイスラエルがいかに情報と、攻撃のハイテクにすすんでいるかを証明するものである。実際には、ガザがイスラエルに太刀打ちなど到底できるものではないのである。

しかし、コスト面でみればどうだろうか。迎撃ミサイルアイアンドームシステムは1億ドル。発射される迎撃ミサイルは1発が5万ドル(600万円程度)となっている。(CTEC)

戦争においては、どちらが勝つかということが重要であるが、近代においては、コスト面を考え、勝ち負け以上に、いったい何が益なのかが考えなければならなくなっている。ガザとの衝突は、一掃してしまうと、その戦争の際の出費、またその後ガザの管理にかかる出費などを考えると、時々、短期の衝突で延々と同じ状況でいるほうが出費は少なくてすむということである。

https://www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Ziyad-al-Nakhalah-The-Palestinian-Hassan-Nasrallah-607752

ネタニヤフ首相は、ビジネスマンなので、一気にガザを粉砕せよと主張する右派勢をかわしながら、今に至っているわけである。従って、今回も50時間で一応の落着となったが、今後、また発生することはすでに計算済みである。

<ネタニヤフ首相の政治的意図?>

イスラエルは、今、連立政権が立ち上がらず、3回目の総選挙になるかどうかとの瀬戸際にある。なんとしても首相の座にとどまりたいネタニヤフ首相が、今この時に、アブ・アル・アタルの暗殺をあえて指示したのではないかとの疑いの声もある。

戦争になれば、国民は、左派ではなく、右派に傾く傾向があるため、ガザとの紛争は、ネタニヤフ首相に有利に働く可能性があるのである。

リーバーマン氏によると、アブ・アル・アタルの暗殺は数ヶ月前にすでに案として上がっていたという。それを阻止したのがネタニヤフ首相であった。それがなぜ今、暗殺に踏み切ったのか。政治的な意図があったのではないか、というのが、リーバーマン氏の指摘である。

ネタニヤフ首相がいかに必死かは、アブ・アル・アタルへの攻撃を実施する直前に、ナフタリ・ベネット氏を防衛相に任命したことからも疑われる点である。

ベネット氏は、昨年末、リーバーマン氏が防衛相を辞任した際に、そのポジションをネタニヤフ首相に要求して断られた。結局、その後、内閣、議会からも姿を消すことになった人物である。そのベネット氏に今、次期政権が決まるまでの暫定政権においてのみではあるが、防衛相の椅子を与えた。

これは、ベネット氏が、ライバルのガンツ氏側へ移行する動きがあったためである。もしベネット氏が、右派ブロックを出て、ガンツ氏側へ移行した場合、ガンツ氏を中心とする小政府が立ち上がる可能性もあった。

ネタニヤフ首相があえて今、防衛相というベネット氏の念願をかなえてでも、ガンツ氏の進出を阻止して、自分を中心とする右派ブロックの一致を強固にしておくためである。アブ・アル・アタルの暗殺は、ベネット氏が防衛相としてそのオフィスに入った当日に始まった。

ベネット氏が防衛相になると発表されると、世論はじめ、政界からも激しい反発を呼んだ。暫定政権なのにこの動きは違法だとの声もあがった。しかし、ガザとの戦争が始まると同時に、その反発の声はなくなった。これもまたネタニヤフ首相の計算であったといえなくもない。

https://mondoweiss.net/2019/11/cynical-and-frightened-why-netanyahu-appointed-bennett-as-defense-minister/

ライバルのガンツ氏は、こうした醜い政治的な背景については、厳しく批判しているが、しかし、元イスラエル軍参謀総長としては、アブ・アル・アタルの暗殺は支持する立場であった。

<石のひとりごと>

今回も一段落したが、何が起こっているかを理解するだけでも、相当なエネルギーを要した。イスラエルの政治、防衛は、実にチェスのごときである。何手も先を読んで、それでも、予想外が発生し、それにだれよりも早く対処しなければならない。そうして終わりが見えてくることもない。

こうした世界で、しかも周囲全部からきらわれ、時に内部からも攻撃されるイスラエルの首相をやっていくということは、想像を絶する体力気力を要する。繊細な日本人には理解できないような超極太の神経が必要だ。しかし、繊細である余裕がないというのがイスラエルの現状であろう。

先日、今回もミサイル攻撃を受けたアシュドドに住むイスラエル人で韓国人を妻にもつジャーナリストのRさんから、「韓国と日本はメンツを守るという点ではよく似ているよね。僕達にはそれがない。」と言われた。

基本的に積極的な韓国人と、ひかえめを美とする日本人では性格は全く違うと思うが、確かに、メンツを守る、人前で誇りを保てるかどうかが、実質よりも重要になることがあるという点では、似ているかもしれない。だから両国ともに自殺が多い。そこがイスラエル人と違うとRさんは言うのである。

イスラエルでは、最終的には、メンツよりも命。恥よりも実質。だから、過去を根に持つ余裕はないし、実質のためなら、昨日の敵も今日は平気で友になる。外からみてそれがどう映るかなど全く気にしないのである。多少恥ずかしいことをしてでも、たいがいは生き残る方を選んでいる。

ミサイル攻撃の下にいるRさんからは、「大丈夫。我々はいつものように強いから。」との返事が来た。その通り、2日で今回も乗り越えた。イスラエルとその国の人々を見ているとなにやら励まされる思いがしている。
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3回目総選挙か直接選挙か 2019.11.8

 2019-11-08
イスラエルでは2回目の総選挙が行われたが、3回目になる可能性が高まってきた。これを避けるため、ネタニヤフ首相とガンツ党首の一騎打ちちとなる直接選挙の可能性が出てきている。経過は以下の通り。

<連立権限:ネタニヤフ首相からガンツ党首へ>

9月17日の2回目総選挙後。リブリン大統領は、リクードとブルーアンドホワイトにより国家統一政権の立ち上げを望んだが、両者がそれを受け入れることはなかった。このため、リブリン大統領はやむなく、まずネタニヤフ首相に、連立形成の権限と任務を与えた。

ネタニヤフ首相は、ガンツ氏に、リクードとブルーアンドホワイトの2党による統一政権を持ちかけたが、ブルーアンドホワイトのガンツ党首が、これに応じることはなかった。このため、ネタニヤフ首相は、立ち上げ期限(28日間)が終了する2日前、仮庵の例祭が終わるや否や、リブリン大統領にこの権限を返上した。

これにともない、リブリン大統領は、23日、ブルーアンドホワイトのガンツ党首に連立形成を任命。ガンツ氏は、ブルーアンドホワイトと、リクード(ネタニヤフ首相以外の党首)、イスラエル我が家党(今回の混乱のきっかけを作ったリーバーマン氏)の3党による連立政権を目指すとみられた。

28日、ガンツ氏は、テルアビブにて、ネタニヤフ首相と会談。ネタニヤフ首相は、リクードが党首の首をすげ替えることはないこと、また、リクードに極右政党とユダヤ教政党も加わって、ネタニヤフ首相が立ち上げた右派ブロック(55議席)も崩れることはないと強調した。

ネタニヤフ首相を辞任させること、ユダヤ教政党抜きの連立を立ち上げることが、公約であるガンツ氏がこれに応じることはできない。両者は、近い将来また会談するということで合意した以外、なんの合意にも達することはできなかった。

https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5614416,00.html

<ガンツ氏のジレンマ:イスラエルにアラブ政党の政権入りはありえない>

ガンツ氏がとりうるオプションとしては、過半数に満たないマイノリティ政府(ブルーアンドホワイト、イスラエル我が家、労働党)を立ち上げ、国会において、アラブ統一政党の支持を得ながら進めるという道がある。

ガンツ氏は、28日、アラブ統一政党のアイマン・オデー氏らと会談。国会での支持だけでなく、アラブ政党が連立政権に入る、つまりは、アラブ人がイスラエルの閣僚になることもありうる状況にあることが明らかになった。

https://www.timesofisrael.com/arab-mks-meet-with-gantz-call-for-real-diplomatic-process-with-palestinians/

しかし、アラブ統一政党に頼る政治が、ユダヤ人の国としてのイスラエルの益になるとは考えにくく、中道左派とはいえ、シオニストを自称するブルーアンドホワイト自身の方針にも反することになる。

次なる可能性は、国家統一政権を、リクードのネタニヤフ首相とともに立ち上げ、まずはガンツ氏が2年間、先に首相となる。

その間、ネタニヤフ首相には、自身の汚職疑惑に関する起訴問題に集中してもらい、もし疑惑が晴れたら、後半の2年間はネタニヤフ首相が首相となるという道である。しかし、ネタニヤフ首相は、これを拒否しているわけである。

このままいけば、3回目総選挙にならざるをえなくなるが、3回目もまた結局同じことになるのは目に見えており、前代未聞、4回目総選挙になる可能性も否定できない。

*故ラビン首相メモリアルでガンツ氏メッセージ

2日安息日明け、テルアビブのラビンスクエアでは、故ラビン首相(労働党)のメモリアルが今年も行われ、群衆がスクエアを埋め尽くした。テルアビブの世俗派に支援者が多いガンツ氏も、この式典でメッセージを述べた。

ガンツ氏は、故ラビン首相が、自身と同じ元イスラエル軍参謀総長であったことを強調。ラビン首相が、1994年のヨルダンとの和平条約締結にあたり語ったメッセージに自らを投影して、「平和への戦い」を導くと宣言した。

しかし、ラビン首相は、言うだけでなく猛烈な実行者であったことから、ガンツ氏には、まだそこまでの動きは見えないとする冷えた意見もある。また、右派に傾く世論の中には、ラビン首相とアラファト議長との和平が、結局はテロにつながったとして、ラビン首相のこの動きを評価しない人も少なくない。

https://www.timesofisrael.com/hearing-gantz-at-memorial-rally-participants-say-hes-no-rabin-but-could-be/

<ネタニヤフ首相:3回目総選挙への対策開始か>

ネタニヤフ首相はすでに3回目総選挙を見据えているとみえる動きに出始めている。チャンネル12によると、ネタニヤフ首相と、ナフタリ・ベネット氏(元教育相)が最接近しているという。

ネタニヤフ首相は、4月、総選挙で、ユダヤの家党がまさかの最低投票率を獲得できなかったことからベネット氏と、その相棒で法務相であったシャキード氏を政府閣僚から辞任させた。これにより、ネタニヤフ首相の味方になりうる右派勢を失ったとも指摘されていた。

そのベネット氏に、今、この時になって、ネタニヤフ首相が近づいているということは、3回目総選挙になった際に味方を増やしておくともみえる動きである。

https://www.timesofisrael.com/netanyahu-said-considering-reappointing-bennett-to-cabinet/

*まだ検討中?ネタニヤフ首相起訴かどうか

ネタニヤフ首相の汚職疑惑とそれに対する起訴については、実に延々と話題になるが、いっこうになんらかの決断に至るということにはまだなっていない。

ネタニヤフ首相の起訴を決めるのは、マンデルビット司法長官であるが、どうやら今月末までには、その決断を発表するとみられる。

それまでの間に、仮に3回目の総選挙になった場合、たとえ起訴されていたとしても、ネタニヤフ首相は、リクード党首として選挙を導くことに法的な障害はない。しかし、いざ首相になるとなれば、起訴内容をクリアされている必要があるという。

リクードが、この問題から、党首選を行うとも言っていたが、今の所、その動きもない。汚職はあっても国にとって必要な人物でもあるとみえ、司法長官も苦渋の決断のようである。

そのネタニヤフ首相だが、10月21日、70歳の誕生日を迎えた。11月3日には、エルサレムのクリスチャン・メディア・サミットでの演説を行った。13年以上首相を務め、イスラエルを安定した状態に導いたと自負する様子には、やはり他の比べようのない不動の貫禄を感じさせるものであった。

<ネタニヤフかガンツか:直接選挙の可能性>

3回目になる総選挙は、コストがかかるだけでなく、3回目も2回目と同じ結果になるとみられ、どこまで意味があるのかはわからない。そこで、選択肢としては、リブリン大統領が、3人目のだれかに連立政権立ち上げを任せるという選択肢である。

3人目とは、たとえば、リクードのエデルステイン氏(現国会議長)や、リクードでネタニヤフ首相に次ぐリーダーであるギドン・サル氏や、イスラエル・カッツ氏などである。この場合、すぐにでも国家統一政権が立ち上がるとみられるが、強いリーダーシップは期待できず、すぐに解散してしまう可能性が高い。

このため、今、イスラエルで議論されているのが、ネタニヤフ首相とガンツ氏の一騎打ちとなる直接選挙である。これを提案したのは、ユダヤ教政党シャスのアリエ・デリ党首である。

イスラエルは、1996年、1999年、2001年にも直接選挙を経験しているが、この方法では安定した政権にならないため、国民が政党に投票し、国会の議席数で決める方法が基本として、法的にも戻されたのであった。

今回、また直接選挙となると、法律を新しくするところから始めることになるが、今の所、ネタニヤフ首相はこの案には同意しないと言っている。

直接選挙になった場合、ネタニヤフ首相対ガンツ氏であるが、チャンネル12の世論調査では、ネタニヤフ首相支持は40%、ガンツ氏支持は36%となっている。

https://www.jpost.com/Israel-News/Should-we-expect-a-political-breakthrough-this-week-analysis-606718

ガンツ氏の連立立ち上げ期限が切れるのは、11月18日。3回目総選挙を避けられるかどうか。注目されるところである。
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ガザからロケット弾スデロット民家直撃:ハマスかイスラム聖戦か 2019.11.8

 2019-11-08
早くも1週間前になるが、1日金曜、安息日入りの夜9時、ガザからロケット弾が7発、イスラエル南部スデロットへ撃ち込まれた。これについては、全部、迎撃ミサイルが撃墜した。

しかしその45分後、再度、ガザからロケット弾が3発撃ち込まれ、1発が、民家を直撃。住民は、先のサイレンでシェルターに入っていたため無事だった。しかし、パニックになって逃げ惑う住民のなかで、1人(65)が転倒して軽傷。複数の人が軽いショックに陥った。

直撃を受けた家は、部屋が破損した他、壁が穴だらけ。近くに駐車中の車も破片で穴だらけになっていた。付近に住民が歩いていたら大惨事になるところであった。

イスラエル軍は、国境の戦車隊がただちに反撃の砲撃を行った他、空軍が、ガザ全域のハマス関連地点への空爆を行った。今回は、ハマスの地下施設への攻撃も実施した。ハマスによると、この攻撃で、パレスチナ人、アフマド・アル・シェリ(27)が死亡。2人が負傷した。

https://www.timesofisrael.com/idf-strikes-gaza-terror-targets-in-response-to-rocket-barrages-on-south/

https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5617613,00.html

<前日金曜ガザでパレスチナ人60人以上負傷>

上記攻撃の前、毎週金曜に行われているガザ国境でのデモに、約5000人が参加。国境全域にわたって、イスラエル軍に対し、手榴弾や自家製武器などの実質的な武器で攻撃を行った。

イスラエル軍は、戦車隊が砲撃を開始。空軍も出動して、ハマス拠点2カ所への空爆を行った。一連の戦闘で、パレスチナ人60人(メディアによっては80人)が負傷した。ガザ国境は毎週金曜、実質、戦場のようになってきているようである。

https://www.timesofisrael.com/thousands-of-gazans-take-part-in-weekly-border-protests-rioters-attack-troops/

<”永遠”に緊張するガザ情勢>

ガザでは、このところ、特に緊張が高まりつつある。先週火曜、木曜と、南部地域に、間違いのサイレンが発せられた。そのたびに南部住民たちは、シェルターへ駆け込んでいる。今後も続く可能性がある攻撃に備え、イスラエル軍は、迎撃ミサイルシステム・アイアンドームの配置を変える措置をとった。

また先週土曜、ガザから風船で飛ばされて来たとみられる本に爆発物が装着されたものも発見された。いつのものかは不明だが、本となると目がないユダヤ人を知っての悪質な行為である。

イスラエルは、週末のロケット弾攻撃を受けて、一応の空爆を行ったが、事態をエスカレートさせたくない今回もそれ以上の動きにはでていない。これについて、実際に被害を受けているスデロット市長などは、ガザへの総攻撃を行うべきだと訴えている。

ネタニヤフ首相は日曜午後、治安閣議を行ったが、その後大きな動きには出ていない。正式な政府がないので大きな決断ができないということもあるが、ガザとの大きな衝突が今のイスラエルにとって益にはならないという状況は今も変わりないからである。

http://www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/270969

<イスラエルのジレンマ:ガザで頭角?バハ・アブ・アル・アタ(イスラム聖戦)>

ガザへの対処が難しいことについて、Yネットの軍事評論家ロン・ベン・イシャイ氏は、ガザにハマスとともに、ハマスとは異なる意見を持つイスラム聖戦の存在を上げる。

ハマスは、イスラエルとの衝突を望んでいないようではあるが、イスラム聖戦はそうではない。昨今のイスラエルへの攻撃はイスラム聖戦によるものが多い。今回のイスラエル南部への攻撃も、イスラム聖戦とみられている。

イスラム聖戦は、ハマスのように市民のことを考える必要がない。またイランの支援で、これまでによりも格段に優れた長距離ミサイルを所有しており、非常に危険な存在になっている。そのイスラム聖戦の指導者として注目されているのが、バハ・アブル・アル・アタである。

https://www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Who-is-Abu-al-Ata-The-man-suspectedly-responsible-for-Gaza-escalation-606639

イスラエルは、今後、ハマスを基準に対応を考えるべきか、イスラム聖戦を基準に考えるべきか、非常に難しい決断に迫られていることになる。

https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5618195,00.html

<反ハマスデモ?>

こうした中、小さいデモであったと思われるが、ガザで反ハマスデモがあった。ハマスの治安部隊が、カンユニス難民キャンプのアナン・アブ・ジャマルさん(28)の家にやってきて、アナンさんを家の2階から放り投げたという。アナンさんはのちに病院で死亡した。

これを受けて、市民たちが、「ハマスは人殺しだ」と叫ぶデモを行ったのであるが、その中で、「シーア派、シーア派」との叫びもあがっていた。ハマスがスンニ派であるのに対し、イスラム聖戦は、シーア派イランの支援を受けている。

今、ガザとパレスチナ自治政府は今、長年行われていなかった選挙を行おうとしているとの記事が出回り始めている。選挙になれば、今のアッバス議長が消えて、ハマスか、イスラム聖戦か、何者が出てくるかもわからない。

イスラエルは、パレスチナ人たちの動きに注目している。

https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5620388,00.html
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イランが新たな核合意離脱:ファルドウ核施設稼働再開へ 2019.11.8

 2019-11-08
5日、イランのロウハニ大統領は、ファルドゥにある核濃縮施設に、ウランガスの注入を始めたことを明らかにした。これによりウランの濃縮が5%まで可能になる。これは、イランの2015年の核合意からの離脱措置4回目となる。

この措置は、アメリカが、あらたにイラン人9人の財産を凍結する制裁を行った後に行われたことから、イランがアメリカの経済制裁には屈しないと宣言をした形である。

また、ファルドウは、もともと極秘で建設されたもので、遠心分離機1044機の小さな施設である。しかし、極秘であったことと、急激なウランの濃縮が可能との疑いもあり、2015年の核合意においては、主要項目の一つであった。ファルドウの稼働再開は、核合意からの離脱をより鮮明にするものである。

ファルドウについては、2018年4月、ネタニヤフ首相が、イスラエルの諜報期間が押収したイラン核兵器開発に関する資料としてファイル10万冊を公表した際、イランが秘密裏にウランの濃縮を進めて核兵器を製造する計画アマッドの中心機関であると発表していた。

https://www.youtube.com/watch?v=qmSao-j7Xr4

このため、今後のファルドウの動きによっては、イスラエルが先制攻撃する可能性も否定できないとの懸念も出始めている。

また、ロウハニ大統領の発表の後、査察に入ろうとしたIAEA(国際原子力機関)スタッフの1人が検問を通過しようとしたところ、アラームがなったとして、そのスタッフの身柄が一時イランに拘束された。その後、このスタッフの入場が拒否されていたことがあきらかとなった。今後、IAEAの査察に影響が出る可能性も指摘されている。

https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5620483,00.html

なかなか強気のイランだが、ロウハニ大統領は、今回の措置も、まだ核の平和的利用の範疇であることを強調し、また、イランへの経済制裁が緩和されるなら、いつでも停止可能としており、国際社会に交渉の可能性を示唆した。

ただし、ハメネイ師によると、交渉は、あくまでもヨーロッパやその他の国々との交渉を指しているのであり、現アメリカのトランプ政権との交渉は拒否したままである。

イランとの交渉については、フランスのマクロン大統領が積極的に行っており、イランの核合意離脱第4弾を受けて、どのような動きに出るか注目されている。

<イランのねらいは?>

INSS(イスラエル国家治安研究所)のイラン核兵器問題の専門家シマ・シネイ氏は、イランの核兵器問題が明らかになってからすでに30年になるのに、まだ実際には核兵器製造にまで至っていないことについて、次のように説明する。

イランは、実際には核保有国になろうとしているのではなく、その気になればいつでも保有国になれるという状態を保ちながらも、核兵器の保有自体は避けるという、いわば、日本と同じような形で世界へのけん制を維持しようとしているのではないかということである。

また、シネイ氏は、イランの様子を見ると、アメリカの厳しい経済制裁で大きな打撃をうけてはいるものの、なんとか乗り切る方策をみつけているようだと見る。それを可能にしているのは、主に中国だと指摘する。

アメリカは、これまでに、イランの原油禁輸措置を発動し、イランとの交易をする国はアメリカとの交易も遮断するという脅迫に近い制裁を強行し、日本を含め各国もそれに従わざるを得ない状況に置かれている。しかし、中国はこの下にあるわけではない。

中国はイランから原油を密輸し、それを国内に運び込まず国外に維持することで、現在必要とする以上の原油をイランから購入している。また、国内に搬入せず、国外の原油保管施設に置くことで、表向きには、イランとの交易は行っていないとも言えるわけである。

来年には、アメリカ大統領選挙があり、11月に、トランプ大統領以外の大統領になっている可能性もある。イランは、核合意離脱を段階をおって実施しながら、経済制裁をなんとかやりすごし、トランプ政権の今後を見定めようとしているとも考えられる。

https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5620483,00.html

<イスラエルの反応>

ネタニヤフ首相は、ファルドウの再稼働はイスラエルの危険になりうるとの認識を語った。同時に、これはイスラエルだけではなく、世界の危機でもあると強調した。

https://www.jpost.com/Israel-News/Netanyahu-Irans-decision-to-enrich-uranium-at-Fordow-endangers-the-world-606969
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イラクとレバノンで反政府・反イランデモ 2019.11.8

 2019-11-08
サウジアラビアの石油施設攻撃に続いて、核合意離脱措置第4弾と、イランがひるむ様子はないが、イラクとレバノンでは、反政府デモから、その政府に影響を及ぼしているイランに対する敵対を表明する大規模なデモが、イラクとレバノンで拡大、継続中である。

イスラエルは、基本的に他国へは干渉しない方針だが、この流れがイランにどう影響してくるのか注目している。

<イラク市民:反政府・反イランデモ>

イラクでは、10月に入ってから、経済悪化を改善できない政府に対する市民デモが始まった。デモ隊は、サダム・フセイン後の政府になってから経済悪化が改善しないことや、イラク人ではない勢力に牛耳られているとして反発しているのである。

最初のデモの波で149人が死亡。警察との暴力が発生すると、反政府デモは徐々に拡大し、11月1日からは、首都バグダッドのタクリル広場に20万人が集まる大きなデモとなった。警察は催涙弾を使うなど暴力的な衝突となり、最初にデモが始まってから250人以上が死亡。9000人以上が負傷したとのこと。

https://www.bbc.com/news/world-middle-east-50280498

さらにこの反政府デモは、イラク政府を支援しているイランにも向かった。4日、群衆は、バグダッドの南、カルバラのイラン大使館を襲撃。「カルバラは自由だ。イランは出て行け」と叫んだ。この衝突で少なくとも3人が死亡した。

イラクのマフディ首相は、新しい選挙後に辞任することを提案したが、群衆は、今の政府全部をまるまる排斥することを求めているとのこと。

イラクの群衆は、シーア派でもあるので、シーア派だからといって、皆イランを支援しているわけではないということである。

https://www.bbc.com/news/world-middle-east-50287644

<レバノンの反政府でハリリ首相辞任>

10月17日、レバノン政府が、たばこと、ソーシャルネットワークのワッツアップに税金をかけようとしたことがきっかけとなり、ベイルートでデモがはじまった。政府はこれをすぐにキャンセルしたが、デモは、大群衆となってその後も続き、10月29日、ハリリ首相が辞任に追い込まれた。

市民の怒りは、今回の税金のことだけではない。イラクと同様、レバノン経済は、改善するどころか、国の借金は今やGDPの150%にまで膨れ上がっていること、また政府内にはびこる汚職に市民の怒りが爆発したということである。

レバノンは、クリスチャンとイスラム教(スンニ派とシーア派)が半々の国。そのために長い内戦が続き、1989年に、大統領はクリスチャン、首相はスンニ派、議会はシーア派と定められた。

しかし、これが逆に、それぞれの政治家が国よりもそれぞれの宗派を庇護する傾向にあるため、国の分裂と汚職を生む結果になっているのである。

デモ隊は、イラクと同様、国家体制まるまるの変革を求めて、ベイルートの主要道路を閉鎖するなどして、今もまだ続いている。それぞれがそれぞれの訴えをして混乱が続いている。しかし、今後、アウン大統領が、新しい首相と政府を任命するのを待つ状態だが、実際にはまるまるの変革は難しいとみられている。

選択肢としては、結局新しい政府に再びハリリ首相が戻ってくるパターン。またアウン大統領が指示するヒズボラが時期政府を牛耳るパターン。もしくは、まったく新しい政府への移行である。しかし、今のところ、3番目のパターンは難しいとみられている。

https://www.aljazeera.com/news/2019/10/lebanon-eyes-hezbollah-allies-hariri-resignation-191031171809685.html

*イスラエルとの関連

イスラエルとしては、このデモで、ヒズボラが弱体化することを期待している。またレバノン経済の回復をEUが行い、ヒズボラの活動の制限をその条件とするよう要請しているという情報もある。

しかし、一方で、アウン大統領とヒズボラが、市民の目をそらすために、逆に、イスラエルを攻撃してくる可能性もある。この場合のイスラエルの対処は事情に難しいものになると懸念されている。

イスラエルがヒズボラの攻撃を受けると、一気に反撃を余儀なくされるが、そうなると多数の市民に犠牲が出て、世界からは、イスラエルが悪の根源呼ばわりになるからである。

ヒズボラは弱体化するか否か。まだ先は全く見えない。イスラエル軍は、レバノンの動きを注意深く見守っている。

https://www.timesofisrael.com/wary-of-hezbollah-israel-unsure-if-lebanon-turmoil-an-opportunity-or-threat/
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トルコ侵攻:シリア北東部情勢その後 2019.11.8

 2019-11-08
シリア北部、ユーフラテス川東では、アメリカ軍の撤退を開始すると、トルコ軍が、10月9日、シリアとの国境120キロ、シリア側へ30キロ幅の帯状の地域へ侵攻を開始した。トルコ国内に滞在するシリア難民200−300万人を住まわせるための”安全地帯”を設立すると称している。

これを受けて、クルド人勢力(YPG)主導のシリア民主軍は、迫り来るトルコ軍に反撃しながら、南への撤退を余儀なくされた。共にISISと戦ってきた米軍に見捨てられた形である。撤退する米軍にクルド人らが、芋を投げつける様子が伝えられている。

こうして、クルド人勢力は、これまで戦ってきたISISではなく、トルコとの戦いに専念しなければならなくなった。シリア北東部で、クルド人勢力が管理してきたISISの戦闘員と家族の収容所から多数が逃亡。再び暴力活動を再開したものもいる。

クルド人勢力は、やむなくかつての敵であったシリアのアサド政権に助けを求めた。シリア政府軍は、ただちにシリア北東部、ユーフラテス東のクルド自治区に入った。シリア内戦後はじめてのことである。せっかく立ち上げたクルド自治区にかつての敵アサド政府軍を招き入れ、もとの木阿弥となった。

シリアは、今やイランとロシアの庇護下にあるので、これはそのまま、イランとロシアが、シリア北東部、ユーフラテス東に入ったことを意味する。また、この地域には、M4ハイウェイと呼ばれる主要道路がある。この道路は、最終的には、レバノンの港ラタキアに続くもので、ユーフラテス川東から、レバノンへの道路が開通したと言ってもよいだろう。

<トルコとシリア軍が戦犯行為か>

もっとも悲惨なのは、トルコが侵攻した地域にいたクルド人市民たちで、20万人(うち8万人は子供)とも言われる群衆が、南へと避難しなければならなくなった。途中で少なくとも市民50人、クルド人戦闘員100人が死亡したもようである。

https://www.bbc.com/news/world-middle-east-50036901

アメリカの仲介で、クルド人たちが、いわゆる”安全地帯”から撤退するための、”停戦”期間が設けられたが、現地では停戦にはならなかったようである。この間にも。トルコ軍に雇われた反政府戦闘員らによる残虐な行為が、ネット上に流れて問題となっている。

クルド人勢力(YPG)の女性部隊の隊員でISIS撃退に活躍したアマラ・レナさんは、殺害されたあと、血まみれの遺体に戦闘員が足を踏みいれる様子が撮影されていた。この他にも、戦犯にあたる行為が多数撮影されている。

https://www.bbc.com/news/world-middle-east-50250330

CBNによると、トルコが使っているシリア反政府戦闘員は、ISISと変わらない残虐性を持っており、イスラム以外のクリスチャンたちなど少数派の人々が非常に危険な状態に陥っているという。

米退役海兵隊員のブランドン・ウィーラーさんは、トルコは、ISISに間接的に協力する動きがあったことからも、トルコの言う安全地帯は安全とは程遠く、アメリカが撤退した今、この地域は、アメリカに敵対する勢力が支配する地域になるだろうとの懸念を語っている。

https://www1.cbn.com/cbnnews/shows/jerusalemdatelineepisodes

<トルコとロシアの合意>

22日、アメリカが設定した一時停戦期間が始まると、エルドアン大統領は、ソチで、プーチン大統領を会談。シリア北東部についての話し合いを6時間以上行った。

特に米軍が撤退した今、シリアの実質上の権力者は、領内に軍も置いているロシアだからである。エルドアン大統領は、日本の天皇即位式をキャンセルしてソチへ向かったのであった。

会談の結果、一時停戦が終了する29日以降、トルコとロシアは、ともに、”安全地帯”からのクルド人勢力の撤退を監視することで合意し、共同でパトロールすることが決まった。イランはこれに合意しているという。

https://www.bbc.com/news/world-middle-east-50138121

今、トルコからシリア領内30キロまでの帯状のエリアは、①トルコとトルコに雇われた反政府勢力が支配する地域。②ロシア軍とシリア人の地域で、この地域の国境から10キロが、トルコとロシアが、共同で監視するエリアとなる。この中にはかつての反政府勢力の拠点コバネが含まれる。

この中にシリアは含まれていないが、トルコ、ロシア、シリア、イランもこの合意に異論はないというところである。

https://www.bbc.com/news/world-middle-east-50152390

トルコは、国連総会で、この帯状の”安全地帯”にトルコにいるシリア難民200万人を住まわせると言っている。そのための費用は530億ドル(5兆8000億円)。

<トランプ大統領の反撃:バグダディ死亡宣言とクルド自治区の石油施設守る米軍は維持へ>

シリア北部が急速にトルコ、ロシアの手に入っていく様子、クルド人が管理していた元ISIS戦闘員らが逃亡などという事態を見て、世界は、トランプ大統領の米軍撤退政策を非難した。

そうした中、29日、トランプ大統領は、ホワイトハウスから、米軍が、イドリブに近いトルコとの国境地点で、ISIS指導者バグダディアブ・バクル・バグダディを追い詰めたところ、3人の子供とともに自爆したと発表した。のちにISISからもこれを確認する声明が出された。

トランプ大統領によると、バグダディは、米軍の犬にどん詰まりのトンネルに追い詰められ、みじめな犬のように自爆したという。

https://www.bbc.com/news/world-us-canada-50200339

しかし、ISISは指導者で成り立っているわけではなく、イデオロギーなので、今後、バグダディが神格化され、逆に世界各地で復讐のテロが発生していくことが懸念されている。

https://www.bbc.com/news/world-middle-east-50208793

また、トランプ大統領は、いったん撤退させた米軍を、クルド自治区の油田を守るとして、シリア北東部へ再び軍を戻しているようである。その規模は不明。

https://www.jpost.com/Opinion/The-US-disconnect-in-Syria-607228

<イスラエルとシリア情勢>

1)クルド人勢力を支援


シリア情勢がますます複雑になっていくが、イスラエルは、基本的には、関与しない方針である。しかし、水面下では、米軍撤退後、追い詰められたクルド人勢力を支援していたことが、政府高官の発言から明らかとなった。

とはいえ、ホットベリー副外務相によると、軍事支援ではなく、外交、人道支援である。クルド人勢力とイスラエルは以前から友好関係にあったため、ネタニヤフ首相が、支援を公に約束していたのであった。

しかし、単に人道支援目的だけではなく、シリア北東部にイランの勢力増してくることを警戒する目的でもある。

https://www.timesofisrael.com/official-israel-providing-aid-to-kurds-since-us-pullout-in-syria/

2)シリアに落下した最新長距離迎撃ミサイルをロシアが確保か

ロシアとは、イスラエル人ナアマ・イッサカルさん(26)が、トランジットでモスクワに立ち寄った際に、微量のマリファナを持っていたとして身柄を拘束され、7年半の刑を言い渡されるなど、関係が微妙な流れになっている。

ロシアは、ナアマさんと引き換えに、アメリカに対するハッキングを行っていたとして、2015年にイスラエルで逮捕されたアレクセイ・ブルコブとの交換を要求した。しかし、アレクセイは、すでに最高裁が、アメリカへの送還することを決定していたため、ロシアの要求には応じるわけにはいかない。

ナアマさんの母親のヤッファさんは、いったん最高裁に、アレクセイのアメリカ送還を停止するよう要請していたが、後にそれを撤回した。理由は、ナアマさんが政治的な道具に使われるべきではないと判断したからである。

ヤッファさんは、リブリン大統領やネタニヤフ首相が、ロシアにかけあってくれている、彼らを信用すると言っている。ナアマさんの釈放については、来年1月のアウシュビッツ解放記念にプーチン大統領がイスラエルを訪問する際に実現するのではと期待されている。

https://www.timesofisrael.com/mom-of-jailed-us-israeli-backpacker-withdraws-petition-against-russian-hacker/

こうした中、6日、イスラエルの最新長距離迎撃ミサイルダビデの投げ縄のミサイルをロシアが確保しているとの情報を中国メディアが流した。

このミサイルは、2018年7月、シリアからイスラエルに向けて発射されたミサイル(ロシア製)に向けて2発発射されたミサイルのうちの一発である。ダビデの投げ縄は、飛来するミサイルを察知して迎撃ミサイルを発射したが、イスラエル領内には届かないことが判明。

1発は空中で自爆させたが、もう1発は、シリア領内に不発のまま着地していたとみられる。ミサイルはそのままで、シリア軍からロシア軍へ引き渡されたもようである。

イスラエルはアメリカとともに、これの返還をロシアに要請している。

https://www.timesofisrael.com/russia-reportedly-in-possession-of-advanced-israeli-interceptor-missile/
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和平条約25年:悪化をたどるヨルダンとの関係 2019.11.8

 2019-11-08
イスラエルとヨルダンは、1994年にラビン首相とフセイン国王との間で、和平条約が成立した。10月26日、両国はそれから25周年を迎えた。

25年たった今、イスラエルとヨルダンの関係は複雑である。ヨルダンは、1994年の合意の時に、ヨルダン側に入ってしまったイスラエル人の畑(名はライムにあるキブツ・ゾファルの900ヘクタールの畑)を平和の島として、イスラエルに貸す契約をしていた。

ナハライムは、ガリラヤ湖南部で、ヨルダン川とヤルムク川が交差する地域で、1997年に、精神に障害を持つヨルダン軍兵士によって、7人のイスラエル人少女(13−14歳)たちが間違って射殺された地域として知られる。

この時、異例にも当時のフセイン・ヨルダン国王が、犠牲者の家を訪問して謝罪したことで知られる。ヨルダンは、25年後の期限を迎えた今、この地域に関する契約の延長をしないと決めた。今後、イスラエル人の農夫らは、畑に行くことができなくなった。

https://www.timesofisrael.com/israeli-farmers-sweat-as-land-they-worked-for-decades-to-be-given-back-to-jordan/

イスラエルとの関係が複雑になってきた背景には、ヨルダン市民の60%がパレスチナ人で、もともとイスラエルとの和平に賛成しない人が多く、最近では、この契約を破棄するよう求めるデモも発生していることがあげられる。

また最近、第三神殿推進派の動きをめぐって、神殿の丘でのイスラエル軍との衝突が増えてきつつある。1967年以降、神殿の丘の管理は、ヨルダンのワクフ(イスラム組織)なので、その度にヨルダン政府が、イスラエルを非難する声明を出している。

さらに、ネタニヤフ首相が、総選挙にあたり、もし時期も首相になった場合、ヨルダン渓谷をイスラエル領に合併すると公約しており、ヨルダンは、これをヨルダンへの敬意の欠損と指摘する。

<アロンの墓への訪問を禁止>

ヨルダンの代表的なナバテア人の遺跡ペトラの近くには、モーセの兄アロンの墓があるとされる高い山、アロンの山がある。そこへ至るには丸1日かけて登っていかなければならないが、そこまで行くユダヤ人がいる。

このアロンの墓をヨルダンは、今年8月2日、突然、訪問禁止とした。理由は、ユダヤ人たちが、そこで違法に角笛をふきながら祈ったとも言われている。

https://www.timesofisrael.com/jordan-closes-holy-site-to-visitors-after-jewish-group-prays-without-permission/

このせいか、10月末、旅行者とともにヨルダンへ入った際、みやげ品として、メノラー(ユダヤ教のろうそく立て)を購入した人が国境で、没収された。ユダヤ教関連グッズや、角笛も今後、没収される可能性があるという。

<ヨルダンの大使呼び戻し事件再び>

2017年、イスラエル大使館で、イスラエル人がヨルダン人2人を殺害する事件が発生。この時、ヨルダンは、関係したイスラエル人をイスラエルへ変換したのだが、ネタニヤフ首相が、そのイスラエル人に「よくやった」とヒーローのように迎えたことがあった。

ヨルダンが激怒したことは言うまでもないことである。ヨルダンは、ただちにイスラエルに派遣している大使を呼び戻し、イスラエルも大使を呼び戻したことで、両国の外交は、6ヶ月間、途絶えたのであった。

https://www.timesofisrael.com/colder-than-ever-25-years-on-israel-and-jordan-ignore-peace-treaty-anniversary/

最近では、イスラエルで、”治安”問題としてヨルダン人2人が拘束され、ヨルダンでは、イスラエル人1人が侵入したとして拘束された。この事態を受けて、一時、ヨルダンの在イスラエル大使がヨルダンに呼び戻された。

しかし、イスラエルとヨルダンは、双方ともに、和平条約を維持し、治安問題、経済関係、ヨルダン川の水関係や、死海に紅海から水を引くプロジェクト関連など、様々な分野で、協力することが必要であることはわかっている。

今回も、交渉がまとまり、事件から1週間以内に、呼び戻されていたヨルダンの在イスラエル大使は、イスラエルに戻った。イスラエルに拘束されているヨルダン人2人も6日、ヨルダンへ戻された。

ヨルダンとの関係は、微妙ながらもなんとか平和を保っているというところか。

*ジャラッシュで無差別ナイフテロ:8人負傷

時々情勢とは無関係と思われるが、ヨルダンの観光名所の一つで、貴重なローマ帝国時代のデカポリスの一つジャラッシュ(ゲラサ)で、ナイフによる無差別テロがあり、ヨルダン人ガイド1人と観光客(メキシコ人、スイス人)計8人が負傷した。犯人はその場で逮捕された。

https://www.bbc.com/news/world-middle-east-50316093

<石のひとりごと>

ここまで読んでくださった読者の皆様に感謝申し上げたい。中東ではここしばらくの間に、実にいろいろな動きがあり、まとめるだけで1週間かかってしまった。

中東では、2010年に中東各国で反政府デモが発生し、多くの独裁者が倒れたことから、アラブの春と呼ばれた。今、その再来かとも言われるほど、各地でデモが発生している。しかし、実際には、以前のアラブの春が、終わっていなかっただけとの見方もある。

それにしてもユーフラテス川を境に、ロシア、トルコ、シリア、イラン、またその背後に控える中国と、見事に大国が、控える図式になりつつあるが、何度も書いているように、これは聖書が予言している形である。

エルサレムでイスラエルと中東、世界を見据えて祈りのエキスパート、リック・ライディング牧師は、今、世界全体がゆすぶられていると語る。これは、国々の中から、主を知る人々が起こされ国々が救われる最後のチャンスの時ということである。合わせて、希望のない国はないと言っていた。

今、日本もゆすぶられている。天皇が交代し、経済も落ち、災害が相次いでいる。人口も減る一方である。人間の力の限界を悟り、神の前にへりくだるときである。

自分を罪あるものと認め、その赦しを自分の力や善行などでは獲得できないことも認め、神自身が備えてくれたイエスの十字架刑の死とそこからの復活による赦しを受け取ることである。
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