スコテ(仮庵):新しい出発 2017.10.8

 2017-10-08
イスラエルでは、10月4日の日没から、仮庵の祭に入った。この後続いて安息日にも入ったため、交通も店も稼働しない日が続き、すっかり休日ムードである。すごしやすい気候の中、夜も昼も、屋外に建てた仮庵の中で食事する食器の音や楽しげな家族たちの声が町中で聞こえている。

8日(日)は、例祭の中日となり、祭司の祈りがささげられるため、嘆きの壁広場は再び、人でぎっしりと埋めつくされる。例のごとく、治安部隊はテロの防止に目を光らせてくれている。

イスラエル政府は、先月のハル・アダールでのテロ事件(イスラエル人3人死亡)が、イスラエル国内での労働許可を持っていたパレスチナ人によるものであったことから、今年は仮庵の例祭の7日間全期間、西岸地区からの入国を、労働許可を持っているパレスチナ人も含め、全面的に禁止すると発表した。

しかし、パレスチナ人労働者に加え、イスラエル人雇用主からの要請もあり、結局1万人は入国することになったもよう。

https://www.haaretz.com/israel-news/.premium-1.815908

<スコテとは何か>

仮庵の祭は、スコテと呼ばれる。スコテは、非常に脆弱で無防備な仮庵のことだが、その他、出エジプトを果たしたヘブル人たちが、最初に宿営した場所の名前でもある(出エジプト12::37)。ヘブル人たちは、ここで種無しパンを焼き、ここから奴隷ではない新しい歩みを始めた。

しかし、スコテは、全く何もない砂漠である。いつ襲われてもおかしくないような脆弱きわまりないスコテで寝るはじめての夜。喜び勇んでエジプトから出て、自由になったものの、ここで初めて厳しい現実に直面することになったヘブル人たちは、いったい何を考えただろうか。

もはや、自分の力にはたよれず、これから何が待っているのかもさっぱり見えない。どこへむかっているのかもわからない。これから彼らを守るものがあるとすれば、彼らを導き出した神、主でしかない。しかし、主は目にはみえるお方ではないし、何を考えておられるのかもわからない。

人間的には、非常に恐ろしい状況だが、このスコテの祭では、イスラエル人は、とにかく喜ぶよう命じられている。目にはみえずとも、全世界の総司令官でもある創造主自身が、彼らをエジプトから導き出したのだから、主ご自身がこれからも必ず守り、導かれるはずだからである。

実際、聖書には、神はここスコテで、彼らのために、寝ずの番をされたとある。(出エジプト12:42)

ユダヤ教では、この例祭期間中、聖書の中の”伝道者の書”を読むことになっている。この書物は、「空は空。いっさいは空である。日の下で、どんなに労苦しても、それが人(アダム)に何の益になろう。一つの時代は去り、次の時代が来る。しかし地(アダマ)はいつまでも変わらない。」と一見、ネガティブな感じで始まっている。

ユダヤ教によると、この書物のキーワードのひとつは、「アダム」(人間)と、「アダマ」(土)という、ヘブル語では同じ”根”を持つ言葉である。

土は、それだけでは、何かをなすことはない。しかし、土は、すべてを生み出す力も秘めている。神が土から人を、様々ま動物や植物を創造されたのである。人も同じで、人自体は、何かをなすことはできないが、神がそこからすべてを生み出させる力も秘めているということである。

スコテは、イスラエルの新しい出発の地だった。ヘブル人は、あまりの無力さに震えていたかもしれないが、彼らは、神によってすべてを生み出す可能性も秘めていたということである。仮庵の祭(スコテ)は、全くの無から、すべてが生み出される新しい出発という意味もあるという。

http://www.aish.com/h/su/tai/48961266.html

仮庵には、この他にも終末にかかわることなど、様々な深い意味があるが、それらをいちいち知ることもなく、とにかく神に命じられたままに仮庵を作り、毎年喜び楽しんでいる現代国家イスラエル。この国は、やはり聖書の神がおられることを証する祭司の国であり、けっして侮ってはならない国だと実感させられている。
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ハマス・ファタハ合意へ急進中か 2017.10.8

 2017-10-08
ここしばらく、エジプトの仲介で、ハマス(ガザ地区)・ファタハ(西岸地区)が合意、合体する動きが続いていたが、3日、パレスチナ自治政府(ファタハ)のハムダラ首相が、自治政府官僚430人を率いてガザを訪問。そこで閣議を開くことで、ハマス・ファタハの合意への動きが進んでいることをアピールした。

ハマス・ファタハの合意への試みは今回がはじめてではない。これまでにも何度か試みられたが、すべて途中で頓挫している。

しかし、今回は、先月、ハマスがガザ地区の政治運営を放棄すると宣言。さらに、合意への意欲のしるしとして、ガザの刑務所にいるファタハ党員5人を釈放した上で、ガザ地区へパレスチナ自治政府官僚たちを受け入れている。今回は、合意に至る可能性もありうるのではないかとその動向が注目されている。

http://www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Palestinian-Authority-government-convenes-in-Gaza-for-the-first-time-in-three-years-506612

<なぜ合意がすすみはじめたのか>

ガザのハマスは、2005年にイスラエルがガザ地区から一方的に完全撤退して以降、勢力を増し、2007年に総選挙でファタハを破ることとなった。この時、パレスチナ自治政府の主権を持っているのはファタハのアッバス議長だが、首相は、ハマスのイシュマエル・ハニエというねじれた状態となった。

これに乗じてハマスは、同年、ガザ地区のファタハ事務所を制圧し、ガザ地区を完全に支配するようになった。以後10年間、ハマス(ガザ地区)と、ファタハ(西岸地区のパレスチナ自治政府)は敵対する関係となった。

しかし、不思議なことに、パレスチナ自治政府は、その後もガザ地区がイスラエルからもらっている電気代を肩代わりし、ガザ地区のハマス政治家にもファタハ党員と同様、給与を払い続けたのであった。

それから10年。ガザ地区の状況はもはや人がすめないような地域になってしまった。まず2007年に、ハマスがガザの支配権を奪うと、国際社会は、ガザへの支援を次々に停止した。ハマスがテロ組織と認定されていたからである。2014年に勃発したイスラエルとの戦争で多くの建物が破壊されたが、まだ多くは再建されていない。

カタールだけは、ハマスを支援し続けたが、今年に入り、カタールは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、バハレーン、エジプトから経済封鎖を受け、ガザ地区を支援できなくなった。

トルコのエルドアン大統領もハマスを支持する立場だが、近年ハイファ沖でみつかった天然ガスの取引で、イスラエルに接近しなければならなくなり、ガザへのはでな支援は難しくなった。

ガザとはすぐ隣のエジプトは、ハマスの母体であるムスリム同胞団出身の大統領、前ムルシ政権が、2013年にクーデターで転覆以降、今のシシ大統領は、ムスリム同胞団を弾圧する政策をとっている。シナイ半島に入り込んでいるISISとの戦いにおいては、イスラエルとも協力する立場である。

シシ大統領になってから、ガザ地区は、イスラエルとの国境だけでなく、エジプトとの国境も閉鎖されてしまうという八方ふさがりとなった。

こうした状況の中で、ガザ地区に住む200万人の失業率は平均42%(若者は60%以上/国連調べ)で世界一となった。燃料不足で水道、下水は破滅し、電気は1日に2時間という日もめずらしくない。国連は、ガザ地区はもはや人間がすめない地域になっているとの見解を発表している。

要するにハマスは、ガザ地区住民のくらしを改善・運営するという行政には全く興味がなく、ただイスラエルとの戦闘のみが目的の組織なのだから、これは当然の結果といえるかもしれない。

これに追い打ちをかけるように、今年4月からは、アッバス議長が、ガザ地区に対して続けていた経済支援を大幅に削減、または停止し、いよいよハマスは生きていけないまでの状況になりはじめた。この状況から脱出するために、ハマスは、すでに始まっていたことだが、いよいよイランに助けを求めざるをえなくなった。

これに慌てたのがエジプトである。ガザ地区にイランが進出してくることはエジプトにとって(またイスラエルにとっても)危険な話である。

そこで、エジプトは、ハマスに近づいて圧力をかけ、まずは、ムスリム同胞団と決別させた。こうしてエジプト政府からの支援を受けられる立場にした上で、ガザ地区の発電に必要な燃料を供給。エジプトとの国境も少しづつ解放して、経済封鎖の緩和を行いはじめた。イランの助けを不要にしたというわけである。

続いてガザ地区という重荷を、エジプトだけが背負いこむことのないよう、ハマスとファタハを和解させ、重荷をパレスチナ自治政府に背負わせようとしている。

しかし、アッバス議長は、むしろ、ハマスをぎりぎりにまで追い詰めて、ほぼ無条件に、ファタハの前にひれ伏す形でパレスチナを統一することをねらっていたと思われる。そうでないと、ハマスが軍事部門を手放すまでの話にならないからである。エジプトのこうしたハマスへの助け舟は迷惑であったはずだ。

実際、ハマスが中途半端にエジプトの傘の下にいるので、今、ハマスは、ファタハとの和解の条件として、軍事部門は、このままハマスが維持すると主張している。ファタハがこれを受け入れることは難しい。将来、もしパレスチナが一つの国になったとしても、ハマスが武力を維持している以上、実質的には、権力は2つあるようなものだからである。

しかし、そこへもう一つの要因が加わった。アッバス議長とは犬猿のライバルとなっているマフムード・ダーラン氏が、アラブ首長国連邦の後押しを受けて、ガザのハマスへ、大きな投資とビジネスの提案を持ち込んだのである。

ダーラン氏は、ガザ出身のファタハ党員で、2007年にガザから追放されて以来、海外アラブ諸国の間で力と経済力をつけた人物。ただし、カリスマがなく、パレスチナ市民からの人気もないために、これまでアッバス議長の対抗勢力にはなりえていなかった。

しかし今、そのダーラン氏が登場してきたということである。もし、ダーラン氏の経済支援の申し出にハマスが乗れば、今アッバス議長が行っているハマスへの圧力は無意味となり、アッバス議長は、この問題に関して、蚊帳の外ということになってしまう。

さらにもし万が一、ダーラン氏の活躍でガザ地区が活性化した場合、それを見て西岸地区までが、アッバス議長を排斥してダーラン氏についていってしまう可能性もある。この事態を避けるため、アッバス議長は、今、エジプトのハマスとの和解の話に乗らざるをえなくなったのである。

結局のところ、ハマスとファタハが合意して一致しようとする背景は、決して同民族間の和解や、パレスチナ人の国の独立などではない。実際には、それぞれの組織の生き残りをかけたやりとりに過ぎないということである。

<ほくそ笑むのはハマス?>

しかしこの流れ、よく眺めてみると、一番、得をする可能性があるのは、どうやらハマスのようである。もし、今のまま、ハマスとファタハが合意に至った場合、ハマスが苦手とするやっかいな行政や借金は、パレスチナ自治政府に丸投げできる上、これからは、イスラエルと戦う軍事部門にのみ集中できる。

ハマスが強気になっているとみられることには、ハマスは、ハムダラ首相のガザ入り後の木曜、元西岸地区テロ部門指導者サレ・アロウリを、イシュマエル・ハニエの元での政治部門に任命したことからもうかがえる。

サレ・アロウリは、2014年、イスラエル人の少年3人を誘拐、殺害したテロの立役者だったとみられている人物。この事件の後、イスラエルとガザのハマスは戦闘に突入した。イスラエルとしても決して穏やかではない人物である。

https://www.timesofisrael.com/hamas-appoints-alleged-west-bank-terror-chief-as-deputy-leader/

今後、ハマスとファタハは、次回、10月末ぐらいにカイロで会談を行うことになっている。

<イスラエルの反応>

ハマスとファタハの合意への動きについて、イスラエルが懸念することは以下の通りである。

ハマスがイスラエルを認めず、戦う意欲と武力を温存したまま、パレスチナ自治政府と和解することで、国際社会がなんらかの承認を与えてしまう可能性があるということ。結果、国際社会がガザ地区への支援を再開することもありうる。この資金は当然、ハマスの軍用資金になる。

その上で、ガザの行政から離れたハマスが、イランの支援を受けて、イスラエルへの軍事攻撃に集中しはじめることが懸念される。

また、ファタハとハマスが、一応の和解という形になった場合、西岸地区にまで、ハマス、さらにはイランが入ってくる可能性も出てくる。これは非常に危険な事態である。

ネタニヤフ首相は、ハマスとファタハの合意について、「パレスチナ人の偽の和解で、イスラエルの存在があやぶまれるようなとばっちりはごめんだ。」と語り、アッバス議長は、ハマスの非武装化と、イスラエルをユダヤ人の国と認めさせるべきだと強く訴えている。

ユダヤの家党のナフタリ・ベネット党首は、「これは、和解などではない。たんにアッバス議長が、テロ組織に加担するということである。」と警告。もしこの和解が国際的に評価され、ガザ地区への支援金流入が再開されるようなことになった場合、イスラエルは3つの条件を固守すべきだと訴えた。

その3つとは、①2014年のガザで戦死したイスラエル兵2人の遺体の返還、②ハマスがイスラエルを認め、扇動をやめる、③パレスチナ自治政府は、イスラエルの刑務所にいるパレスチナ人テロリストへの給与支払いをやめる。

・・・・が、ベネット氏のこの要求をハマスとパレスチナ自治政府がそのまま受け入れるとは到底考えられず、今の所、イスラエルは、この和解が本当に実現するのか、もしした場合、どんな結果が現れてくるのか、今は見守るしかない、というところである。

http://www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Israel-wont-accept-fake-Palestinian-reconciliation-506623
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パレスチナがインターポール(国際刑事警察機構)に加盟決定 2017.10.8

 2017-10-08
インターポール(国際刑事警察機構)は先月、北京で行われた総会にて、パレスチナを正式な加盟国をみとめるかどうかの採択を行った。パレスチナ自治政府は昨年もこの採択を要請していたが、今年に持ち越されたものである。

結果、賛成75、反対24、棄権34で可決され、パレスチナは正式にインターポールの加盟国になった。

今回の採択については、アメリカとイスラエルは、まだ正式な国家でないパレスチナが国として加盟するのは、おかしいと反対。採択の数週間前から、採択自体が行われることがないよう根回しを行っていたが、功を奏さなかったようである。

今後どうなるかだが、パレスチナ自治政府は、論理的には、イスラエル人を犯罪者として訴えることも可能となる。しかし、実際に、どの程度の実効力があるのかは、ユネスコの場合と同様、どうも不明瞭な点もある。

パレスチナは、イスラエルとの直接交渉はもはやありえないと判断。国際社会に取り入って、イスラエルを国際的に孤立させる作戦を続けている。

http://www.jpost.com/Israel-News/Politics-And-Diplomacy/Interpol-votes-to-admit-State-of-Palestine-as-new-member-state-506088
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クルド自治区の独立とイスラエル 2017.10.8

 2017-10-08
2014年、シリア、イラクでは、ISISが登場し、イラクでは、バグダッドに次ぐイラク第二の都市モスルを含む広大な領域を奪っていった。これに対し、イラク軍とアメリカ、有志軍も加わって ISIS撃滅をすすめたことから、これまでにISISの支配域はかなり小さくなってきた。

この戦いの最前線で戦ったのが、イラク北部の自治区を持つクルド人勢力ペシャメルガである。クルド人たちは、最前線で戦うことで、クルド人勢力の支配域と影響力を拡大し、最終的にはイラクからの独立も目指していたとみられる。

しかし、クルド人は、イラクの他、シリアやイランなど多数の中東諸国に散らばって住んでいる。そのクルド人の国が独立するということは、中東全域に影響を及ぼしかねない事態である。

9月、クルド人たちが、独立への国民投票を行うと発表すると、イラク中央政府は、これを違憲だとして反対した。またクルド人とは歴史的に敵対してきたトルコ、イランがこれに反対する立場を表明した。

こうした中、9月25日、クルド自治区は、イラクから独立するかどうかの歴史的な国民投票に踏み切った。結果、92.7%が賛成票を投じ、クルド人たちは喜びに沸いた。

実際には、クルド自治区は、今も経済的にイラク中央政府に依存しており、海がないことから独立した経済の樹立も難しく、実際の独立は、すぐには実現しそうもない。しかし、独立支持者が90%を超えたという事実をもってイラク中央政府に圧力をかけるとみられる。

国民投票の後、イラク、トルコ、イランは、クルド自治区に対する経済の締め付けを始めたほか、軍事的な動きもあり、突発的な戦闘になる可能性も指摘されている。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171005-00000539-san-m_est

<クルド人とイスラエルの友好関係>

クルド人たちの多くはイスラム教徒だが、クルド人とユダヤ人とは友好関係にある。クルド人たちは、小さなイスラエルが中東で独立を実現させたことをモデルとしてみているという。

イラクにまだユダヤ人がいたころ、クルド人たちは、迫害にあっていたユダヤ人が自治区を通ってイラクから出国するのを助けた。一方、イスラエルも、ISISと戦っているクルド人勢力に対し、諜報活動など、さまざな分野で支援を行っていたと伝えられている。

イスラエルは、クルド自治区独立の国民投票を支持する立場を表明した唯一の国である。このため、国民投票の結果が出た際、一部のクルド人は、クルド自治区の旗とともにイスラエルの旗を振っていた。

今後もし実際に、イラク北部のクルド自治区が独立すれば、イスラエルは、シリア、イラク、イランという敵対国の中に足がかりを持つことになり、本国防衛の大きな防波堤を持つことになる。

トルコのエルドアン大統領は、「クルド人の独立で益を受けるにはイスラエルとアメリカだ。」と語った。またイランを公式訪問したエルドアン大統領と、イランのハメネイ最高指導者は、「アメリカが、中東にもうひとつのイスラエルを作ろうとしている。クルド人の独立投票は、地域への裏切りだ。」と非難した。

エルドアン大統領は、イスラエルのモサド(諜報機関)が、クルド人の国民投票を操作したとも非難したが、イスラエルはこれを否定した。なお、アメリカは、この独立投票については、地域を不安定にするとして反対する立場であった。

https://www.timesofisrael.com/us-seeks-new-israel-in-region-khamenei-says-of-iraq-kurd-referendum/

世界は今やどこから火をふくかわからないが、ここにも一つ発火点ができたようである。
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ヨム・キプール(大贖罪日):国をあげて神の前に出る 2017.9.30

 2017-10-01
イスラエルでは、29日、日没午後6時から大贖罪日(ヨム・キプール)に入った。その前夜までの”スリホット”(ヘブライ語で、謝罪)で、告白してきた罪に関してヨム・キプールは、いわばその判決を受け取る日である。

この日、統計によると、ユダヤ市民(成人)の90%近くが、29日(金)午後6時から、30日(土)午後7時までの25時間、水も飲まない完全断食を行い、神を意識する。当然、レストラン、商業施設はすべて閉店。バスなどの公共交通機関はもとより、個人も車の運転を控える。

国営放送も停止している。イスラエルに民間放送はないので、30日日没まで、テレビもなし。ネットのニュースもストップしている。

29日、日没後は、コール・ニドレと呼ばれる特別な礼拝が行われる。人々は、日没後、居住区最寄りのシナゴーグに行き、夜10時すぎぐらいまでを過ごす。それまで、12歳以下の子供達は、ガラガラになって”安全”な道路で、自由自在に自転車をのりまわして遊ぶというのが、ヨム・キプールの風物詩である。

今年は、安息日と重なった。通常の安息日なら、金曜夜は、夕食を終えたあとに、遅くまでサッカーを楽しむ声が聞こえるのだが、さすがに今夜はそれもない。静まりかえった中、子供達が、自転車や三輪車などを乗り回す声が聞こえはじめている。

一方で、イスラエルは、この聖日に合わせ、西岸地区からのパレスチナ人の出入りを制限し、エルサレム、特に旧市街の警備を強化して、治安の維持にあたっている。休日に休んでいない治安部隊もいるということである。

<罪を神の前に告白するということ>

大贖罪日の祈りは、「ビドゥイ」と呼ばれ、自分の罪を神の前に言いあらわし、告白するというところから始まっている。このため、白い服を着る人が多い。

ユダヤ教では、この祈りの際、前に頭を下げてはならないと教える。自分が、悪いことをしたと思ったら、どうしても頭を下げてしまうのだが、そうではなく、まっすぐ顔をあげて、神の前に出て、胸をたたきながら、声にだして、罪を告白せよというのである。神の前に隠し立てや、とりつくろいをしないためである。

しかし、この日、神の前に顔を上げるためには、実際には、この日までに、それぞれが自分の罪を自覚し、悔い改めているというのが前提になっている。また。だれかを傷つけたことを思い至ったら、まず、その人に対して謝罪し、関係の回復をしておかなければならないと教える。これができていてはじめて、ヨム・キプールの日に、神の前に出て、神の赦しを求めることができるのである。

ラビ・フォールマン(現代正統派)によると、ユダヤ教の賢者ラビ・ランバンは、正しい悔い改めは4つのことからなると教えた。①罪から離れる決心(現在)。②同じ罪を繰り返さないと決心する(未来)。③犯した罪について真に後悔する(過去)。④罪を告白する、の4つである。

このうち、①〜③は、自分の内面でのことだが、④だけは、相手がある。ユダヤ教では、この④だけが、”ミツバ”(613箇条の律法)に含められているという。それは、④だけが、崩れていた関係を実際に修復することになるからである。

この時、大事なことは声に出して罪を悔い改めるということである。相手がある場合、声に出して罪を告白し、謝罪しなければならない。それによって、関係が回復し、未来を変えていく力になるのである。口に出して告白し、関係の回復を得る。これは、神との関係回復の一歩においても同様である。

ユダヤ教から発したキリスト教にもこの教えは反映している。「人は心に信じて、口で告白して救われるのです。(ローマ人への手紙10:10)」

<赦しの代価について>

聖書によると、かつてエルサレムに神殿があったころ、年に一回、ヨム・キプールの日に、牛が殺され捧げものになり、赦しの代価としていた。しかし、今は、神殿がない。あってもおそらく、生き物保護の観点から、牛を殺すことに反対するというのが、現代のイスラエルスタイルであろう。

現代においては、一部の超正統派は、鶏を頭の上でふりかざして(カパロット)、それを罪の代価にするが、多くのイスラエル人は、鶏の代わりにお金を代価として、チャリティ団体などに寄付をする。最近は、超正統派でも、鶏ではなく、お金を捧げるスタイルが増えてきているという。

ヨム・キプール前夜、エルサレムの超正統派地域メア・シャリームにカパロットの取材に行くと、世俗派とみられるイスラエル人たちが見物に来ていた。聞くと、それぞれ、「俺は鶏をささげた」「私はお金よ」とそれぞれが言っていた。世俗派なのだが、この日の行事は実施しているようである。

この罪の代価の背景にあるのは、”犠牲をはらう”という概念である。ユダヤ教では、鶏やお金を代価にすることに合わせ、ヨム・キプールの日1日を断食して苦しむこともその一環と考えられている。確かにこの乾燥した国で水も飲まないというのは、なかなか苦しいことである。実際には寝て過ごす人も少なくない。

また、大贖罪日の前10日間は、悔い改めのスリホットと呼ばれる祈りが捧げられるが、これは、夜中0時から1時と決められている。本来寝ている時間をいわば犠牲にして、祈るところに意義があると考えられている。

この点において、キリスト教は、牛ではなく、神の御子であるイエス・キリストが犠牲となり、十字架にかかって、人類のために死に、その後よみがえって、罪の完全な赦しの道を作ったと教える。言うまでもなく、ユダヤ教はこれを信じていない。

<終末に来るイスラエルの国家的悔い改め>

聖書には終わりの時に、イスラエルは世界諸国に攻められるが、その中で、イスラエル人が神の前にいっせいに悔い改める様子が描かれている。

・・・その日、わたしはエルサレムに攻めてくるすべての国々を探して滅ぼそう。わたしは、ダビデの家とエルサレムの住民の上に恵みと哀願の霊を注ぐ。

彼らは自分たちが突き刺した者、わたしを仰ぎ見、ひとり子を失って嘆くように、その者のために嘆き、初子を失って激しく泣くようにその者のために激しく泣く。・・・・その日、ダビデの家とエルサレムの住民のために、罪と汚れをきよめる一つの泉が開かれる。(ゼカリヤ書12:9−13:2)

大贖罪日とその前のスリホットの期間、嘆きの壁の前で、ユダヤ人の大群衆が、神に泣き叫んで祈りを捧げるが、その様子は、まさにこの時の準備であると感じさせられる姿である。

嘆きの壁の大群衆と、それを警護する警察の様子:http://www.jpost.com/Israel-News/Thousands-gather-at-Western-Wall-ahead-of-Yom-Kippur-506306

<石のひとりごと>

ヨム・キプールの前夜、つまりは、悔い改めの最終日、近所のシナゴーグのスリホットを取材した。男性は下、女性は上と別れる。下の男性たちは、100人前後だろうか。黒服に黒帽子、髭をのばした老人、編んだキッパをつけた小太りの中年男性、白髪の老人、これらにまじって、野球帽を逆さまにかぶり、穴の空いたジーンズ姿の少年たちも一緒に神の前に出て、真剣に祈っていた。

イスラエルは、この現代においても、この日は、聖書に記された通り、国をあげて、聖書の神の前に出る。その礼拝の様子には、年配スタイルも若者スタイルもない。

欧米系か、東方系かによる違いはあるものの、基本的にこの日の礼拝は、昔からほとんど変わっていない。それでも、いわゆる”若者離れ”はまったくない。

若者も年配者も、この神の前にあっては、少なくともこの日だけは、すべてが罪人であると意識する。結局のところ、この神との関係を維持することこそが最も大事なことであるということを覚えざるをえない国。それがイスラエルである。しかし、それこそが今もイスラエルを守り、不思議に強くしているのである。

この点、日本には、こうした絶対の神が存在しない。だから平気で「神対応」とかいった言葉が氾濫する。さらに最近、ある記事を見て震え上がった。「バルス現象」というもので、ツイッターで一斉に「バルス!」という呪いのことばを発信するという現象である。

バルスとは、「閉じる」とか「滅び」「破壊」を意味することばで、テレビで、天空のラピュタが放送される時に、主人公が戦いでバルスというタイミングに合わせて、いっせいに「バルス!」とツイートするという現象である。天空のラピュタが放送される時は、「バルス祭り」と呼ばれている。

この現象は2011年から始まっていたらしく、2013年には、1日のツイッター量が431万4588回と、世界記録にも達したという。あまりにも多数のツイッターが殺到するので、実際にサーバーが破壊されたこともある。そのバルス祭りが、この9月29日、ちょうどイスラエルがヨム・キプールに入った日に行われた。

今回の放送日のあった29日のツイッター数は、2013年よりは激減し、188万5599回だったらしいが、ここ数年、「閉じる」とか、「破壊」といった呪文が日本中に流れていたのかとおもうと背筋が寒くなった。

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ27HWF_Y7A920C1000000/

一方、今、エルサレムでは、9月20日からトム・ヘス牧師が開催する祈りの祭典が行われており、今年も日本から富田慎吾牧師を中心に16人の若い世代のグループが参加している。祈りの期間は2週間。毎日夜中に起きて日本やアジアのためにとりなしている。日本チームが来始めたのは、ここ3年ほどのことである。

彼らの祈りを聞くと、「開く」とか「門から入る」とかがキーワードとなり、絶対の神、聖書の神、イエス・キリストの犠牲による罪からの救い、すべての呪いからの解放が日本の上に宣言されている。バルス現象の「閉じる」とか「破壊」という呪いを押し返してくれているようである。

若い人々が、経済も時間も捧げ、エルサレムまで来て、夜も寝ないで祈る姿は、イスラエルの大贖罪日に犠牲を払おうとするユダヤ人の姿に匹敵するようでもある。まさに、「ダビデの幕屋」を日本にももたらそうとする姿だと感じた。多くの犠牲をはらって家族連れで毎年来られる富田慎吾師とそのチーム働きに感謝した。
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