トランプ大統領の中東和平政策 2017.5.8

 2017-05-08
トランプ大統領が、イスラエルとパレスチナの中東和平問題解決に乗り出している。まずは、アメリカが仲介または、きっかけ作り役となり、2014年に頓挫して以来になる両者の対話を再開したい考えである。

トランプ大統領は、イスラエル、パレスチナ双方が納得する案であれば、2国家案(国を2つに分ける)でも1国家案でもどちらでもよいと発言しており、2国家案に固執したこれまでの大統領の考えとは異なった立場を明らかにしている。

しかし、実際にトランプ大統領がどのような将来像をもって和平を目指すのか、具体的なことはまだ明らかではない。

なお、1月20日の大統領就任の時点では、義理の息子で、現在、大統領上級顧問のジェレッド・クシュナー氏(ユダヤ人・36歳)が、中東政策の担当となっている。

http://www.jpost.com/American-Politics/Jared-Kushner-will-broker-Middle-East-peace-at-the-White-House-says-Trump-478554

<トランプ大統領:アッバス議長会談>

3日、トランプ大統領は、ホワイトハウスにて、パレスチナ自治政府のアッバス議長と会談した。

アッバス議長は、昔からの変わらぬ方針、①エルサレムをパレスチナの首都とし、②1967年の軍事ラインを国境線にしてパレスチナ国家を設立する(神殿の丘を含む東エルサレムがパレスチナになる)という主張をトランプ大統領に伝えた。

結局のところ、この2点は、まさにイスラエルが受け入れられない究極の2点である。要するに狭い路地で対面した車2台が、どちらもが後ろにも引けず、かといってゆずり合う隙間もなく、ただにらみあったままになっているという状況なのである。

この会談において、トランプ大統領は、アッバス議長に、イスラエルへの敵意を緩和するため、イスラエルの刑務所にいるテロリストの家族への経済支援を停止することや、イスラエルへの憎しみを増長するような発信をやめるように要請したと伝えられている。

http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4957090,00.html

この会談について、アラブ系メディアのアル・ジャジーラは、具体性のまったくない、ただ「無駄」としかいいようのない訪問と、かなり手厳しく伝えた。

http://www.aljazeera.com/indepth/features/2017/05/trump-abbas-meeting-exercise-futility-170505124344776.html

<トランプ大統領のエルサレム訪問予定>

アッバス議長との会談の後の5日、トランプ大統領は、正式にエルサレムを今月22日、23日と一泊2日で訪問するという予定を発表した。

エルサレムに滞在中には、ネタニヤフ首相に会う他、ベツレヘムでアッバス議長にも会う方向で、調整が進められている。

エルサレムでの宿泊はキング・デービット・ホテル。同伴者やセキュリティ関係者、マスコミも世界中から来る。トランプ大統領がホテルから移動するたびに、道路が封鎖され、エルサレムは相当な混乱となる。

この翌日が、エルサレム統一50周年記念日で、様々なイベントの他、若い右派シオニストたちが市内から旧市街までをパレードする日になっている。治安部隊にとっては、悪夢のような3日間になりそうである。

イスラエル政府は、ホワイトハウスに対し、訪問を6月に延期するよう要請したが、トランプ大統領が、これを拒否したと伝えられている。その背景には、時期的な重要性が考えられる。

トランプ大統領は、アメリカ国家祈りの日*であった5日に、「自由は政府が与えるものではなく、神が与えるものだ。信教の自由を保障する。」と語る中で、エルサレム訪問を公式に発表した。

日程は、5月19日にアメリカを出て、イスラムのメッカがあるサウジアラビア(20−21日)、次にエルサレムがあるイスラエル(22−23日)、続いてキリスト教のバチカンがあるローマ(24日)を訪問するという、3宗教を等しく回る予定である。

またこの直後の25日には、ブリュッセルでNATO首脳会議にあわせて、EUのトゥスク大統領と、ユンケル欧州委員長 に会うことになっている。その翌日26日からは、イタリア、シシリー島でのG7に出席する。

なかなか忙しそうだが、これでトランプ政権の外交方針がだいたい見えてくるのではないかと思われる。

http://www.jiji.com/jc/article?k=2017050500735&g=int

<そもそも・・ヨルダン・オプション>

イスラエルとパレスチナの問題が、どこにも解決がないかのような事態になっているが、そもそも、パレスチナ人の国はすでにあるではないか、というのが、昔からある、”ヨルダン・オプション”である。

オスマントルコが崩壊したのちのイギリス委任統治の時代、1917年から1922年(トランスヨルダン設立)までは、今のイスラエルだけでなく、ヨルダンを含めた地域全体が「パレスチナ地方」と呼ばれていた。

それを1922年に分割してイスラエルとヨルダンにしたのだが、ヨルダンの国民は今も70%以上がパレスチナ人であり、今の王妃ラーニアもクエート生まれではあるが、パレスチナ人である。

いわば、この最初の2国家分割案の時に、イスラエルはユダヤ人の国、ヨルダンがパレスチナ人の国、ということで落着してもよかったわけである。

ところが、1960年代にアラファト議長率いるPLOが登場する。1993年のオスロ合意の時には、このアラファト議長率いるPLOが、正式にパレスチナ人の代表となり、第二のパレスチナ人の国ともいえる国を立ち上げることになった。

その新しいパレスチナになる予定の国も2007年に、西岸地区のファタハと、ガザ地区のハマスが分裂した。今では、ガザという第三のパレスチナ人の国ともいえるものができはじめた。問題は徐々に複雑化をたどっているというのが現状である。

今になって、そもそもの話を出してももう、まったく意味はないのだが、今になってこの理論を再度持ち出した記者は、「パレスチナ人の国を論じるなら、イスラエルだけが、そのために領土を差し出すのではなく、ヨルダンにもその一端をになう責任があるのではないか。」と訴えている。

理論的にはまったくその通りといえるかもしれない。しかし、そうはならないというのは、イスラエルにはエルサレムがあるからである。

結局のところ、パレスチナ問題の究極の到達目標地点は、「エルサレムからユダヤ人を追放する」という一点につきるというイスラエルの指摘は、残念ながら正しいといえるだろう。

さてトランプ大統領、これにどう介入するのだろうか。。。

http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4957389,00.html

*アメリカの国家祈りの日

アメリカでは、1775年に初代の議会が、国家をあげて神の前にへりくだりって悔い改め、祈る日を設けた。1863年には、リンカーンが、国のために断食の祈りを呼びかけている。

1952年、トルーマン大統領が、毎年恒例の国家行事とし、1988年、レーガン大統領が、5月第一木曜を、国家祈りの日に定めた。

http://www.nationaldayofprayer.org

しかし、アメリカでは、年々リベラル化がすすみ、同性愛者の結婚式を拒否する教会は、法廷に訴えられ、宗教法人としての税金控除の特権を剥奪されるなどして、破産する教会や、神学校が相次いでいる。

今年の国家祈りの日、トランプ大統領は、教会の発言力を強化する、牧師のメッセージも監視されることはないと語り、いわゆる”ジョンソン・アメンドメント”(政教分離のため、政治に口出しする教会は税金控除を剥奪されるなどの法案)を破棄するとの方針を語った。

一見、よいことのようにもみえるが、アメリカの有力な福音派メディア、クリスチャニティ・トゥデイは、ジョンソン・アメンドメントの廃止だけでは、政治的な発言に関することだけであり、ほとんど意味がないとして、落胆の反応をしている。

http://www.christianitytoday.com/ct/2017/may-web-only/trump-religious-liberty-order-johnson-amendment-ndop-prayer.html
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ローマ法王がエジプト訪問 2017.5.2

 2017-05-02
4月28日、ローマ法王フランシス(80)が、先月、受難週に発生した2回の爆破テロ(ISIS犯行声明)で、コプト・クリスチャン45人が死亡したエジプトを訪問した。

エジプトは現在、3ヶ月の国家非常事態宣言下にあるが、警戒態勢の中、法王は、国賓としてエジプトのシシ大統領に迎えられた。

訪問の目的は、迫害を受ける中東のクリスチャンたちを励ますことと、テロへの反対を訴えるためである。

BBCによると、法王は、1000年続くイスラム教の伝統的な学舎アル・アズハルのイマームに迎えられ、その地でスピーチも行った。

しかし、この訪問が、どの程度コプトクリスチャンを励ましたかどうかは不明。エジプトの総人口の10%を占めるコプト教徒は、東方教会に由来する正教会である。コプト教徒たちは、最近のテロ事件に関して、エジプト政府は十分な対策を講じていないと不満を訴えている。

ローマ法王は、世界13億人のカトリックの代表だが、エジプトのカトリックは、BBCによると15万人以下。

http://www.bbc.com/news/world-middle-east-39743162
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中東情勢・その後 2017.4.16

 2017-04-16
<シリア情勢>

1)アサド大統領はまだ化学兵器を持っている:亡命元シリア軍司令官


化学兵器の使用も保有も完全に否定しているアサド大統領だが、Yネットやアル・アラビアが伝えるところによると、2014年に、完全に国際社会に提出したと申告したはずの化学兵器は、全体の半分に過ぎなかったという。

残りは今もホムス近郊の山岳地帯に、厳重に隠してあると、亡命した元シリア軍司令官(化学兵器担当)が明らかにした。

http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4949399,00.html

2)反政府勢力?避難民のバス車列を攻撃:39人死亡

シリアでは、シリア政府軍の包囲、逆に反政府勢力に包囲されたまま、市民が拷問されたり餓死者が出るなど悲惨な町が多数ある。

このため、詳細は不明だが、4つの町(政府支配域の2つと反政府勢力支配域の2つの町)の市民約3万人をそれぞれ脱出させることになったようである。

AFP通信によると、14日、政府支配域から5000人、反政府勢力支配域から2200人が、数十台のバスにのって脱出をはじめた。

ところが道中、政府支配域から脱出してきた市民らのバスが、反政府勢力の車両爆弾にあい、これまでに39人が死亡した。この数はまだ増える可能性がある。この攻撃の後、バスの車列は、ロシア軍が警護しているという。

BBCが伝えるところによると、政府軍、反政府軍、いずれかに包囲され、餓死者もでるような悲惨な状況に置かれているシリア市民が、64000人はいるとみられている。

http://www.bbc.com/news/world-middle-east-39609288

現在のシリア情勢は、おおまかにいうと、ロシア、イランの後ろ盾で、シリア政府の勢力が盛り返し、ISISを含む反政府勢力が劣勢になってきた、という状況だった。

そうなったのは、つい先月まで、トランプ大統領が、シリア不介入を表明していたことも要因となっている。少ないながらもアメリカの支援を受けていた反政府勢力が劣勢になったことで、シリア政府側が優勢になったのである。

ところが今、トランプ大統領は、シリアに対する方針を180度転換し、アサド政権の排除にとりかかっている。これが解決に向かうのか、さらなる混乱に向かうのか。。。今はまだ不透明のままである。

いずれにしても、シリア市民にとっては地獄の沙汰である。ライディング師に示されているように、シリアの次世代の子供たち、若者たちを主があわれみ、救いに導かれることが、将来のシリアにとっての唯一の希望である。。。

<アフガニスタン・イラク:ISIS撃滅にむけての動き>

1)アフガニスタン:米・巨大爆弾の結果


アメリカが、巨大な爆弾モアブをアフガニスタンに投下したが、BBCが、投下された地域総督の情報として伝えたところによると、この爆撃で、ISIS戦闘員少なくとも90人が死亡した。

市民の犠牲者は、今の所、報告されていないが、アフガニスタンのカルザイ大統領は、「アメリカの行為は非人道的」と非難している。

http://www.bbc.com/news/world-asia-39607213

2)イラクのモスル戦闘の状況

イラクのモスルでは、イラク軍がISISを徐々に追いつめている。BBCによると、イラク軍は、モスルの主要なモスクへの攻撃に入っていたが、14日、アメリカ主導の有志軍による空爆で、最高宗教指導者とみられるムフティのアブダラ・アル・バダラニが死亡したという。

このムフティは、独裁で、拷問や性的奴隷などの許可を出した人物とみられており、ISISにとっては大きな打撃になったとみられる。http://www.bbc.com/news/world-middle-east-39603491

しかし、首謀者であるアル・バグダディは、声明一つだしておらず、まったくどこにいるかわからない状況である。また、BBCによると、ISISはモスルの子供たちを人間の盾として使っており、状況は変わらず悲惨。

http://www.bbc.com/news/world-middle-east-39475591

<トルコ:エルドアン大統領の権力増大なるか>

トルコでは、16日、大統領の権限増大を含む憲法改正に関する国民投票が行われる。これにより、首相職が廃止され、大統領と副大統領になる。大統領の権限が強大化するとみられ、懸念されている。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170414-00000060-jij-m_est

なお、トルコはISISに敵対する立場である。日本の外務省は、明日トルコの投票所が、ISISによるテロの標的になる可能性があるとして、近づかないよう、警告を発している。
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トランプ大統領が巨大爆弾投下:アフガニスタン 2017.4.14

 2017-04-14
13日、アメリカが、アフガニスタンの ISIS地下拠点とみられる洞穴地域に、非核爆弾では最大最強で、通称”モアブ(Mother of All Bombs”ともよばれるGBU-43(9800キロ)を投下した。アメリカ軍が実戦でこの爆弾を使用するのは初めて。

今の所、現地の被害状況は明らかになっていないが、爆弾の威力からして、相当数の武装勢力が死亡した可能性がある。

http://www.bbc.com/news/world-asia-39595989

アメリカは現在、アフガニスタンに、地上軍を駐留させているが、状況は改善せず、すでに15年になっている。これに終止符を打ちにとりかかったものとみられる。が、北朝鮮などに「アメリカはやる」というメッセージでもあるともみられている。

この爆弾は、地下トンネルや地下壕にも到達する威力があるため、アフガニスタンの山中のゲリラ拠点を撃破するには適切だったとアメリカ駐留軍のニコルソン司令官は語っている。

しかし、あまりに唐突にこんな爆弾を使うトランプ大統領。なかなかのジャイアンぶりである。

こうなると、現在、北朝鮮近海に向けて、原子力空母カールビンソンを移動させているトランプ大統領が、北朝鮮や、東シナ海で軍用とみられる人口島を作っている中国に対しても、いつ実際の攻撃にでるかもわからない。

なお、空母カールビンソンは、日本の海上自衛隊と、東シナ海で、共同訓練も検討中だという。日本ももはや他人事ではなくなりつつある。

http://www.news24.jp/articles/2017/04/12/04358790.html
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米:シリアへ軍事攻撃:イスラエルは? 2017.4.8

 2017-04-08
日本でも報じられている通り、4日、シリア・イドリブ地方で、サリンとみられる化学兵器が使われた事件を受け、7日深夜、アメリカが、シリア軍の空軍基地(今回の化学兵器使用に関与したとみられる)への軍事攻撃に踏み切った。

BBCなどによると、地中海に駐屯する巡洋艦から計59発のトマホーク巡航ミサイルが発射され、シリア空軍機などが大きくダメージを受けた。アメリカは基地に対し、事前に警告をだしていたが、シリアによると、兵士6人が死亡した。

トランプ大統領は、攻撃後の記者会見で、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したと断定。これは、人類、”神の子供達”に対する冒涜であるとし、国際社会にシリアにおける暴力やテロ撲滅に向けて協力を求めた。

今後どうなるのかだが、今回の攻撃が、化学兵器使用に対する限局したものとの見方もあったが、緊急で開かれた安保理において、アメリカのヘイリー代表は、「アメリカはさらなる(軍事)行動の用意がある」と発言。予断を許さない状況になっている。

http://www.bbc.com/news/world-middle-east-39529264

<緊張する米ロ関係>

今回、アメリカは、化学兵器を使用したのはシリア政府軍であると断定している。被害にあった地域が、反政府勢力の支配域であり、事件発生時、シリア政府軍がこの地域に空爆を行っていたからである。反政府勢力は、空軍を持っていない。

アメリカは、シリア政府軍が、化学兵器を搭載した爆弾を使用したと考えている。

しかし、アサド政権とロシアは、これを否定。反政府勢力が違法に保管していた化学兵器に、シリア政府軍の空爆がたまたまあたったことによる暴発だと主張している。

今回のアメリカの攻撃に関して、ロシアは、事前通告を受けていたと伝えられている。しかし、プーチン大統領は、アメリカの行為は、国際法違反で、独立国に対する犯罪だとして、厳しく非難した。

プーチン大統領は、今後の米ロ関係に深刻な影響を及ぼすことになる語り、現在、シリア上空で、米ロの戦闘機が衝突しないように取り計らう協定を破棄すると宣言した。

これはかなり危険なことで、万が一、両国の戦闘機がシリア上空で衝突するようなことがあれば、まさに米ロ対決、大戦争の様相になる可能性も出てくる。

なお、以前からの予定で、ティラーソン米国務長官が、来週火曜、モスクワのプーチン大統領を訪問予定となっている。

*ロシアとシリアの関係について

アメリカがアサド政権に今回の化学兵器使用の責任を追及するということは、そのままロシアへの責任追及になる。

2013年、シリアが化学兵器を使用した時、ロシアのプーチン大統領が、責任をもってアサド政権に化学兵器を処分させると約束したからである。

当時、アメリカのオバマ大統領は軍事行動を準備し、発動命令を待つばかりとなった。しかし、その直前になってロシアが登場し、シリアに化学兵器を全部、差し出すと約束させ、ロシアがその経緯を責任を持つと主張した。

そのため、オバマ大統領は、軍事攻撃を踏みとどまった。大戦争は避けられたが、この後、アメリカにかわって、ロシアがシリアに対して強大な影響力を及ぼすようになり、ロシア軍がシリア領内にも展開するようになった。

同時にロシアと関係の深いイランがシリア領内で影響力をもつようになり、ヒズボラも強大になった。ISISのような危険極まりないグループが登場し、シリア情勢はますます混迷化した。中東を不安定にしたのはオバマ大統領の失策だと言われるようになっていた。

なお、ロシアがなぜシリアのアサド政権を支援するかだが、ロシアは、地中海にアクセスを確保するため、シリアを手中に収めておくことが必要であること。また、先日、ロシアのセントペテルグルグの地下鉄で大きな自爆テロがあったように、ロシアはチェチェンなどに多数のテログループを抱えている。

それらをシリア領内に抑えておくというのが、ロシアのアサド政権支援の狙いだと考えられている。しかし、シリアを手中に収められるなら、アサド大統領でなくても、だれでもいいわけで、とりあえず、今はアサド氏をささえているだけで、それも永遠の関係ではない。

<急転換するアメリカ>

今回のアメリカのシリアへの攻撃については、その急転換が注目されている。トランプ大統領はアメリカ第一主義であり、オバマ大統領のシリア問題への介入も激しく批判していたからである。

また、アメリカのティラーソン国務長官は、先週、「アサド政権を打倒するかどうかはシリア市民が決めることだ。」と、アサド大統領排斥に固執しない、つまり、アサド政権存続も容認するかのような方向転換を匂わせていた。

ところが、化学兵器を使用したとたん、わずか3日後にトランプ大統領は方針を急転換し、アサド大統領は、新しいシリアに関与するべきでないと断言。議会の承認もすっとばして、すみやかに軍事攻撃に踏み切ったわけである。

今回の予想外に早い方向転換と、実際の軍事攻撃は、ロシア、シリアのみならず、国際社会の問題児であるイランや、最近、ミサイルの実験を繰り返している北朝鮮に対し、実行力ある強いアメリカをアピールした形となった。

トランプ大統領がそこまで計算していたかどうかは不明だが、皮肉にもトランプ氏自身が退くといっていた「世界の警察:アメリカ」が復活した形である。

しかし、専門家たちは、果たしてトランプ大統領が将来も計算して行動したのか、ただ単純に感情で動いているのかわからないとして、相変わらずトランプ大統領は、”予想外”を続けているようである。

<中東への影響>

今回の攻撃を真っ先に歓迎したのが、サウジアラビアだった。サウジアラビアは、アメリカの協力がほとんどないまま、イエメン、シリアで、イランなどシーア派勢と戦っていた。そこへアメリカが、大きな楔をうちこんだ形である。

国際社会では、イスラエル、イギリス、フランス、ドイツなどのヨーロッパ諸国、カナダ、オーストラリア、日本がアメリカの行動を支持する立場を表明。現在トランプ大統領を訪問中の中国は、アメリカを支持するとは言わないが、化学兵器の使用は、許容できないと言っている。

一方、ロシアとともに、アメリカの軍事行動に反発すると表明しているのは、シリアとイラン、(ヒズボラ)である。

http://www.bbc.com/news/world-us-canada-39526089

まとめると、現在の中東の力関係はだいたい以下の通り。しかし、いうまでもなく、いつでも変化するあやういチーム分けである。

①ロシア:シリア、イラン、(ヒズボラ)、北アフリカ諸国・・・シーア派勢
②アメリカ:イスラエル、トルコ、エジプト、ヨルダン、湾岸アラブ諸国・・・スンニ派勢 *ISISはスンニ派であることが複雑

なお、中東各地には多数のアメリカ人がいる。イラクやイランなどにいるアメリカ人や欧米人たちの安全が懸念されている。

<イスラエルへの影響>

イスラエルでは、シリアで化学兵器が使用されたとみられる映像に衝撃があった。まるでホロコーストの写真であったからである。

イスラエルは原則として、シリア問題には不干渉の立場を取っているが、今回は、モラルの問題として、イスラエルはシリア人を助けるべきだとの意見もある。

http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4945533,00.html

お伝えしているように、イスラエルは、ゴラン高原でシリアと国境を接しており、わずか50キロ先で、地獄の沙汰となっている。イスラエルは、隣人としてのモラルからも、これまで極秘にシリア市民の負傷者(反政府勢力関係者含む)を治療してきた。

また、最近では、難民のシリア人孤児をイスラエルへ引き取る案も検討されていたところである。*これについては、当分保留となったもようである。

一方で、イスラエルは、武器がシリアからレバノンのヒズボラに引き渡されるのを阻止するため、先月にもシリア領内での空爆を行っている。これらのことから、シリアからすれば、イスラエルは反政府勢力を支援する立場にあるとの認識になっている。

シリアのモアレム外相は、今回のアメリカの攻撃は、反政府勢力を助けることになり、つまり、益を受けるのは最終的にはイスラエルだと語った。http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4946184,00.html

ヒズボラも同様の見解を明らかにしている。http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4946686,00.html

いずれにしても、中東で、何かがあると、何かとイスラエルが引き合いに出され、巻き込まれる危険性がでてくるものである。今後、国際社会の注目をそらすなどの目的で、イランやヒズボラが、何らかの形で、イスラエルを巻き込むような攻撃をしてくるかもしれない。

また、イスラエルは、イランがヒズボラに武器を引き渡す情報が入った場合、シリア領内で、輸送隊を空爆するが、それについては、ロシアの暗黙の了解をもらうことで、今の所、合意ができていると伝えられている。

しかし、シリア上空での米ロ戦闘機に強調関係がない中、イスラエルの戦闘機までが入っていくことに対して、ロシアが続けて暗黙してくれるのかどうか・・・先行きが見えない状況となっている。

<化学兵器の悲惨について:BBC現地報告より>

シリアのイドゥリブ地方で、サリンとみられる化学兵器が使用されたことは、日本でも報じられた。しかし、その本当の悲惨は、十分、伝わっていないかもしれない。

犠牲者は、86人に登ると報じられているが、実際の悲惨は数だけではない。一例だが、BBC現地からの報道によると、アルヨーセフさんは、9ヶ月の双子と妻を含む家族親族22人を失った。

4日、空爆があった時、アルヨセフさんは急いで双子と妻を避難させた。その時、家族親族の家が爆撃されたとの知らせが入り、アルヨセフさんは、救出に向かった。

現場では、両親、兄弟とその子供たちなど家族20人が全員、遺体となって死んでいた。化学兵器とみられる症状を呈していたという。4時間後、妻と子供達のところに戻ると、3人も死亡していた。   

アルヨセフさんは、「子供たちは大丈夫だと信じて、他の家族を助けに行っていた。子供たちは無事だと思っていたのに・・」と、泣き崩れていた。あまりの悲惨に、インタビューしていた記者もマイクをおいて、アルヨセフさんの頭を抱えていた。

http://www.bbc.com/news/world-middle-east-39519634

その後のニュースによると、アルヨセフさんは、数少ない生き残った親族に守られながら、廃人のようになっている様子が報じられていた。その親族の男性は、アラブ諸国に対し、「あなたがたは、私たちを見捨てた。」と静かに訴えていた。

シリアでは、市民たちの救出組織ホワイトヘルメッツが活躍していることが伝えられているが、今回は化学兵器であったため、救出しようとした隊員たちが次々に倒れたという。

シリア人たちは、国際社会に対し、「ガスマスクを」「次は私たち」などとプラカードを掲げて、アサド政権打倒への国際社会への強い介入を訴えている。

しかし、当然ながら、同じシリア人であっても、アサド政権側について、一応の平穏を維持できているダマスカス住民などからは、アメリカの攻撃に反発する声が出ている。これもまた悲惨な様相である・・・。
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