FC2ブログ

トルコがシリア東北部へ侵攻開始:イスラエルの反応は? 2019.10.11

 2019-10-11
トランプ大統領が、シリア北部から米軍を撤退させると発表して約48時間後の10日早朝、トルコが、ユーフラテス川東川を含むシリアとの国境、約300キロ全域で、ロジャバとよばれる西クルド自治区への侵攻を開始した。

戦闘機による空爆は、少なくとも6都市、181箇所に及ぶ。これまでに少なくとも市民11人が死亡。数十人のクルド人戦闘員、SDF(自由シリア軍)戦闘員の死亡が報告されている。(トルコの報道では、トルコ兵1人と、クルド人戦闘員277人死亡となっている)

https://www.timesofisrael.com/turkey-reports-first-military-fatality-in-syria-incursion/

この地域には200万人とみられる人々がいるが、トルコの攻撃でパニックとなり、わずかな荷物とともに車で、多くは大荷物をかつぎ、子供たちを連れて歩いて脱出する様子が伝えられている。多くは、シリアで8年続いた内戦で、すでに難民となっていた人々である。

トルコの侵攻以来、すでに6万人が難民になったとの報告があるが、今後100万人規模で難民が発生する可能性も懸念されている。

https://www.bbc.com/news/world-middle-east-50011468

トルコ空軍による空爆は、クルド人が管理していた元IS戦闘員らの収容所にも及んでいるもようで、最も危険とされるISメンバーが、脱出した可能性も指摘されている。

*西クルド自治区のIS関連収容所

クルド自治区には、ISとの戦闘で捕虜としたIS戦闘員とその家族ら数千人が、各地の収容所に入れられている。海外から来ているメンバーも少なくないが、今となっては、この人々を受け入れる国はない。まさに行き場のない囚人となっている。

トルコのエルドアン大統領は、世界中からの非難を受ける中、これはトルコ南部にトルコに対する危険なテロの回廊ができるのを防ぎ、地域の平穏を保つものだと主張。作戦を「平和の泉」と呼んでいる。

https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5604990,00.html

<西クルド自治区とは?:なぜトルコが攻撃するのか>

まずクルド人は、トルコ、シリア、イラク、イランにまたがる形で住んでいる。クルド人の国として独立国になる夢はあるが、なかなか実現するものではない。

シリア内戦中、シリアのクルド人勢力(シリア人口の7−10%)は、シリアの反政府勢力であるFSD(自由シリア軍)と米軍、水面下では敵であるアサド政権軍ともなんらかな協力をとり、ISと戦った。

IS領域を奪回する中、内戦でアサド政権が弱体化していたこともあって、クルド人の領域が、シリア領の30%を占めるまでに拡大し、ユーフラテス川東に安定したクルド自治区を形成するに至った。これを、イラクのクルド自治区に対して西クルド自治区(ロジャバ)ともよばれる。

このクルド自治区は、中東の中ではめずらしく、民主的な政治運営がなされており、クルド人だけでなく、アラブ系イスラムのほか、キリスト教徒やヤジーディなど、様々な人々が政治に参加するシステムを持つ非常にユニークな地域である。イスラエルとも友好関係にあり、ユダヤ人でクルド人勢力に混じって戦った人もいるほどである。

この西トルコ自治区がトルコに取って問題になるのは、クルド人勢力の中のYPGというグループである。YPGは独立をめざして、トルコ国内でも武力闘争を行ってきたため、トルコは、YPGをテロ組織とみなしている。

そのYPGが中心になっている西クルド自治区が、広く480キロにわたってトルコ南部と国境を接していることにトルコは、かねがね危機感を持っており、2018年にもアフリーンへの攻撃を行っていた。

また、今トルコが侵攻している地域は、アメリカとも合意の上で、シリア難民のための安全地域を設立する計画がすすめられていた地域である。

トルコとしては、この国境地域からYPGを追放したあとに、安全地域を確立し、トルコにいる360万人にものぼるシリア難民を、そこへ帰国させたいのである。

しかし、この地域には、YPGだけでなく、一般のクルド人の他、すでに多数のシリア難民や、ISの捕虜とその家族がおり、多くの人々が巻き添えになることはさけられないということである。

https://www.bbc.com/news/world-europe-49719284

<なぜアメリカは撤退を決めたのか>

トランプ大統領は、トルコとシリア国境(シリア側)に沿った安全地帯を設立することには賛成し、米軍もこれに協力していた。ところが、10月6日、エルドアン大統領が、この地域へ侵攻するとトランプ大統領に伝えてきた。理由は上記の通りである。

トランプ大統領は、これには同意せず、「これは”よくない動き”だ。アメリカはこんなエンドレスの戦いに巻き込まれるわけにはいかない。そんな戦争のために米軍兵士を犠牲にするわけにはいかない。」として、米軍を撤退させると言ったのである。

一方で、トランプ大統領にしても、トルコの申し出は、撤退へのよい理由になったとみえ、「戦争するなら勝手にやってくれ。それなら今後、その地域にいるISの捕虜とその家族についても、トルコが責任を持って対処するように。」

「クルド人は、我々とともに戦う中で、これまでに十分武器の供与を受けてきた。これからは、トルコ、ヨーロッパ、シリア、イラン、イラク、ロシアとクルド人でなんとかすることになるのだ。」と言い放って、アメリカは、さっさと手を引いたということである。

トランプ大統領に一理がないわけではない。しかし、広い視野で見た場合、アメリカ軍がここから撤退することは、事実上、同盟として戦ってきたクルド人を見捨てるとともに、多くの難民達を見捨てることになり、さらには中東情勢を大きく変えることになる。

現時点で、すでにどの程度のアメリカ軍がこの地域から撤退したのかは不明だが、もし本当に全部撤退した場合、ユーフラテス東側のをロシア、イラン、トルコにギフトとして与えることになると指摘されている。

<クルド人勢力:ロシアに仲介要請>

トルコからの攻撃を受け、一般のクルド人たちの組織(Autonomous Administration of North and East Syria)は、国際社会に対し、アメリカが中心の連合軍に対し、ただちに国境をノーフライゾーン(戦闘機が侵入できない空域)を設定するよう要請を出した。

しかし、アメリカがすでに撤退を表明していることから、クルド人武装勢力は、ロシアに、シリアのダマスカスにおいて(つまりはシリアの合意のもとということ)、トルコに攻撃をやめるよう仲介を要請を出した。

後者の場合は、西クルド自治区(ユーフラテス川の東)が、いよいよロシア、イラン、シリア(アサド政権)、トルコ側へ移行していくことを意味する。

<ロシアの反応:トルコに青信号も期間限定を要請>

トルコのエルドアン大統領は、シリア北東部への侵攻前にトランプ大統領に電話連絡したが、ロシアのプーチン大統領にも電話していたという。プーチン大統領は、侵攻するなら最小限にとどめるよう伝えたという。

もしトルコの動きに歯止めがかからない場合は、ロシアの権限で、国境の安全地帯をノーフライゾーンにすることも可能である。

ロシアにとっては、この地域からアメリカを撤退させることができ、もしロシアの仲介によって、トルコの動きを制することができたら、ロシアにとっては、政治的なプラスになっていく。いまや、中東ですべての国と対話できるのはロシアだけとなっている。

https://jp.reuters.com/article/russia-middleeast-turkey-idJPKBN1WQ0F0

<イランはトルコとの国境付近で軍事訓練>

イランのロウハニ大統領は、トルコにシリアへの侵攻をやめ、撤退するよう要請する声明を出した。

イランは、トルコがシリアへ侵攻するとまもなく、イランとトルコとアゼルバイジャンとの国境、クルド人居住地に近い地域で、突然、大規模な軍事訓練を開始した。イランは、あらゆる状況に備えるためと言っている。

イランにとっては、ユーフラテス川東から米軍が撤退することは有利であるかもしれないが、同時に、国内でクルド人勢力がどう動くのかにも警戒しているのかもしれない。

<EU・国際社会の反応>

トルコのシリアへの侵攻は世界中が非難している。特にEUは、トルコ経由で地中海を越えてヨーロッパに流れ込んでいたシリア難民をトルコで足止めしてもらうみかえりとして、66億ドル(約7000億円)を支払っているEUにとっては穏やかなことではない。

EUは、トルコの非人道的な攻撃を非難するとともに、危ないISメンバーが野放しにされることへ強い危機感を表明している。

https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5604990,00.html

しかし、アメリカ抜きでの連合軍では全く無力であるし、国連はもっと無力で、国際社会にできることはなにもないというのが現状であろう。

<イスラエルはクルド人を見捨てない?:イスラエルの懸念>

イスラエルはクルド人勢力とは友好関係にあり、これまでにも水面下での支援を行っていたといわれている。

トルコのシリア北東部への侵攻を受け、イスラエル軍予備役兵ら数十人が、フェイスブックに、イスラエルは、クルド人への人道支援ならびに、情報、軍事支援をするべきだとの意見を投稿した。

その数時間後、ネタニヤフ首相は、ヨム・キプール戦争に記念式典で、「クルド人はイスラエルとは友好関係のある。ネタニヤフ首相は、イスラエルはクルド人を見捨てず、人道支援を行う。」と発表した。

しかしながら、イスラエルがどのように支援するかは、報道されないであろうし、実際のところ、それを実行するかどうかも不明である。

また、ネタニヤフ首相は、無難にアメリカがクルド人を見捨てたというような非難は盛り込まず、あくまでもアメリカとは友好な関係は維持すると強調した。一方で、ロシアとの連絡も怠っていないだろう。

https://www.jpost.com/Israel-News/Dozens-of-reservists-call-on-Netanyahu-Kochavi-to-help-Kurds-604235

アメリカがシリアから撤退し、クルド人という同盟をも失うことは、イスラエルにとっては、大変危険なことである。しかし、それ以上に危惧されることは、トランプ大統領が、今回の決断で、いよいよ世界から嫌われ孤立することである。

イスラエル側に立つと目されるトランプ大統領が、世界から孤立するということは、それはそのまま、いや倍増する形で、反イスラエル感情につながっていく可能性があるからである。
カテゴリ :中東情勢 トラックバック(-) コメント(-)
タグ :
≪ トップページへこのページの先頭へ  ≫